さわや書店 おすすめ本
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no.4732021/8/19UP
本店・総務部Aおすすめ!
沈黙 ドン・デリーロ/水声社
映画『ノーカントリ―』冒頭、老保安官の語り。
――私は25歳で保安官になった ウソのようだ 私の祖父も父も保安官だった 父が現役のうちに私は保安官になった 父は誇りに思っただろう 私も誇らしかった (中略) 少し前ある少年を死刑にしたことがある 私が逮捕し法廷で証言した 彼は14歳の少女を殺害した 新聞は“激情犯罪”と書いたが本人は“激情はない”と言った “以前から誰か人を殺そうと思っていて” “出所したらまた殺す”と “自分は地獄に行く” “15分後には地獄だ”と どう考えたらいいのか全く分からない 最近の犯罪は理解できない 別に恐ろしいわけじゃない この仕事をするには死ぬ覚悟が必要だ ただ必要以上に無茶なことをして 理解できないものに直面したくはない だが魂を危険にさらすべき時は “OK”と言わねばならない “この世界の一部になろう”と――
本書を読んで、なぜか上記を思い出した。どちらの物語も事態が好転する事はなく、話として面白いわけではない。それでも妙に惹きつけられるのは、リアルで過酷な現実を描写しながらも、文章自体に、あるいは目に映る画像自体にどこか厳粛な美しさを感じるからだ。すべての装飾を取り除いてなお、人間に残る最後の残像のような。
テクノロジーは進化すればするほど、世界の脆弱性や危険度も増す。本書はそんな現在のような状況下での、人間の混乱と思考と、その後に落ちる沈黙を描いている。