さわや書店 おすすめ本

  • no.306
    2019/1/22UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    死刑のための殺人 読売新聞水戸支局取材班/新潮文庫

    金川真大という男は、「確実に死ぬために死刑になる」ことだけを目指して通り魔事件を引き起こした。「土浦連続通り魔事件」と名付けられたその事件は、犯人の身勝手な動機と、無差別に殺傷されたその被害の甚大さを見れば、同情の余地など微塵もない。
    しかし、この事件の取材をした記者の一人は、こんな実感を本書の中でもらしている。
    『「もしどこかでつまずいていれば、自分も同じようになっていたかもしれない」。そんな思いさえ抱くようになった。それは私だけの特別な感情ではなく、同僚記者も同じだった』
    本書を読んで、僕も同様の感想を持った。金川という男について何も知らなければ同情など出来ないはずのこの事件に対し、「自分も同じようになっていたかもしれない」と思わせるだけの背景があるのだ。
    そういう意味で本書は、殺人事件を追ったルポというだけの作品ではない。金川という男を生み出した社会全体を切り取る作品であり、また子供をいかに育てるかという警告の書でもあるのだ。
    様々なニュースを見ながら、「自分の子供はこんなこと絶対にしない」と、意識的にも無意識的にも感じている親にこそ、本書を読んでもらいたいと思う。