さわや書店 おすすめ本

  • no.99
    2016/12/14UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    檸檬のころ 豊島ミホ/幻冬舎文庫

    7編の短編が収録された連作短編集だ。
    この作品に出てくる人は、ごく普通の人が多い。特別「こういう」という風に表現できないような、どの高校にも普通にいそうな、高校時代こんな人たちと一緒にいたよな、というような人が物語の主人公になっている。
    その、ごくごく普通の人たちを、著者は見事に輝かせる。物語の中で何か特別なことが起こるわけでもないにも関わらずだ。普通の、僕らが想像できる範囲の高校時代という枠の中で、そういう普通の人達の生活がものすごく輝いて見える。
    これが豊島ミホの凄さだなと思う。ありきたりの人、ありきたりの状況を使って、ここまでグッとくる物語を書けるものなのか、と感心させられる。
    この作品を読むと、実は誰でも主人公なのではないかと思えてくる。どれだけ平凡な人生を歩んでいても、その人生は物語の主人公足りえる何かを含んでいるのではないかと思わされるのだ。