さわや書店 おすすめ本

  • no.422
    2020/10/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    横道世之介 吉田修一/文春文庫

    大学入学後の、たった1年間だけを切り抜いた物語。そして所々に少しだけ挿入されるその後の人生が、チクリと胸に刺さる。
    自分とは全く関係ない物語のはずなのに、自分でも忘れている大切な何かを思い出させる。あの頃の事がなぜか次々と思い出され、なんだかとても切なく、いたたまれなくなる。懐かしくて切実。そんな小説だ。
    思い返してみると、若い時の中でその後を左右する重要な1年間というのは、確かにあるような気がする。ただし振り返ればというだけで、実際の当時はそんな事とは決して思ってはいない。それは本人も全く意識しないようなほんの些細な出来事だったりする。
    本書は当人も気づかない、なんてことのない、それでいて決定的な1年間その一瞬一瞬が見事に切り抜かれている。カッコいい事など何ひとつ起こらなくとも、紛れもない青春そのものが。
    本書原作の映画も傑作である。