さわや書店 おすすめ本

  • no.457
    2021/5/5UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    月と六ペンス ウィリアム・サマセット・モーム/新潮文庫

    名作文学には時代の風潮に流されない力強さがある。
    本書は画家のポール・ゴーギャンをモチーフにした小説。天才画家と周囲の人々を、ある小説家が客観的に見つめるという物語だ。タイトルの「月」とは美しい理想を表し、「六ペンス」は現実の生活を表現しているのかもしれない。様々な解釈があると思うが、これは決して単に美しい「月」だけのサクセスストーリーなどではない。語り手である「わたし」が、登場人物たちの「善」の中にある「悪」を見、また「悪」の中にもある「善」を見出だしている。道徳的にも論理的にも正しくはない場面もあるが、それにより人間の中にある光と影を明確に表現している名著だと思う。
    古典文学は、現在では他者から教わることのできない問いを、こころに植え付けてくれる。そしてその答えは自分の中で、時の経つほどに成長し熟成されていく。