さわや書店 おすすめ本

  • no.409
    2020/7/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    悪童日記 アゴタ・クリストフ/ハヤカワepi文庫

    この物語には注意が必要だ。普通に読めば、一切の感情を省いたような文章に、驚愕と嫌悪感を覚えてしまうかもしれない。しかし続編の「ふたりの証拠」を読むと大きく事情が変わってくる。そして三部作最後の「第三の嘘」でさらに印象が変わり完結する。後になってよく考えてみると「悪童日記」がより効いてくるのである。これは決して子供向けの物語ではない。
    映画で例えるならば、デイヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』のような、虚構と現実が入り交じる多重的で幻想的な物語に近い。ただしこの映画も普通に観た場合、初見ではかなりの混乱と恐ろしさだけを残してしまうかもしれない。
    デイヴィッド・リンチ監督はあるインタビューの中で、この映画の意味を問われた時にこんなコメントをしている。「そんなものは観た人が勝手に考えればいいし、それぞれが正解なんだ」と。名作は見方によっていろいろな解釈ができ、時を経ても決して色あせることがない。練り上げられた物語であることだけは間違いがなく、本書もそんな物語のひとつだろう。