さわや書店 おすすめ本

  • no.619
    2025/4/4UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    悪の法則 コーマック・マッカーシー/早川書房

    ダイヤモンド商:そう、クラウンとパビリオンがそれぞれ好ましくカットされていても互いがちぐはぐになることがある。最初の切子面がカットされるともう後戻りできません。合一の象徴となるべきものが永遠に不実を残すことになるわけですがそこにわたしたちは厄介な真実を見てとることができます。人間の企ての形は良かれ悪しかれ着手した時点で完成するという真実を。
    弁護士:(顔をあげて)しかし完璧なダイヤモンドなどないと。
    ダイヤモンド商:この世に完全なものなどない。父がよく申しておりました。
    ―中略―
    ダイヤモンド商:石は目撃する人間が登場する以前に地球の深いところでできあがったけれど今はここにある。今はここに。誰がその目撃者なのか。わたしたちです。わたしたち二人です。ほら。(ダイヤモンドをクリップに留めて)これは警告を与えてくれる石です。
    弁護士:警告を与えてくれるダイヤか。―
    (以上本書より抜粋)
    映画『悪の法則』(原題:The Counselorリドリー・スコット監督2013年公開)。本書は2023年に亡くなられた米文学の巨匠コーマック・マッカーシーが映画用に書き下ろした脚本だ。弁護士は違法な取引に片足を突っ込んだ途端、どう足掻いても一切取り返しのつかない地点まで一気に転がり落ちてしまう。著者にしては短い物語だが、すべてのエッセンスはこの一冊に凝縮されているように思う。断っておきたいのは、これは知人に薦められるような映画では決してないという事。ただ、個人的には観終わった後も長い期間、何を意味しているのか時折ふと考えさせられる。強烈で深遠、そんな映画だ。本と映画が多少異なる部分もあり両方読むと理解が深まる。店には置いていないので興味のある方のみ注文をお願いしたい。