さわや書店 おすすめ本

  • no.565
    2023/9/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    心淋し川 西條奈加/集英社文庫

    直木賞受賞作文庫化。
    厳しい境遇に立たされた老若男女が流されてくる心町(うらまち)の長屋を舞台にした時代連作短編集。「心」と書いて「うら」と読ませるように、それぞれに傷を持った住人達は互いに干渉し過ぎず、でもそれとなく心を配り合いながら暮らしている。何かが一気に好転する事はひとつもないが、1篇1篇に鈍く光る人生があり、貧乏長屋なればこその粋を感じさせる。
    最近では「貧富の格差」やら「二極化」などと声高に報じられたり、さらには「親ガチャ」や「論破」などという品のない言葉が流行ったりもするが、それはいつの時代でも言っても詮無い同じ事。たまにこういう小説を読むと、時代の趨勢に関わらず本当に大切なものは何なのかを思い出させてくれる。
    誰の人生にもAIなどでは計り知れない、繊細な心の機微があるだろう。