さわや書店 おすすめ本

  • no.344
    2019/8/13UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    影裏 沼田真佑/文藝春秋

    来年映画化される本書。文学性の強い作品は、受け取る側がどう読むかに全てが懸かっていると思う。これをどう映画で表現するのか今から楽しみだ。
    物語はごく短く、誰にでもわかるような文章で綴られている。普通に読めば多少の違和感と共にさらっと流れて、人によっては何も残らないかもしれない。しかし本書はこの違和感の意味を、じっくり時間をかけて読み解くべき作品であり、ある意味わかりづらいミステリーと言えなくもない。この物語の主題はタイトルの通り、言葉にされていない「影」や文章化されていない「裏」にこそあると思う。
    物語の終盤、主人公が日浅の父親に被災者の捜索願を出すように詰め寄る場面がある。父親は「では友情にお応えするとして」と、不意に席を立つ。ここで主人公は、“友情と、たしかにそう聞こえた。だがそれが誰と誰とのあいだの友情を指していうものか正確なことはわからなかった。”とある。話の流れとしては当然、主人公と日浅に決まっているのに全く予想もしていなかったような反応。友情ではないとするならば何なのか。そしてこの父親の、縁を切ったという息子に対する反応も、言葉とは裏腹な想いが濃厚に漂う。
    全く関係ないかもしれないが、デヴィッド・リンチ監督の映画『マルホランド・ドライブ』の不条理な美しさや難解さに近いものを感じる。