さわや書店 おすすめ本

  • no.264
    2018/8/14UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    幻の黒船カレーを追え 水野仁輔/小学館

    著者がしていることは、大したことではない。こう言ってはなんだが、著者の抱いた疑問は、世の中的にはどうでもいいものだ。これが「数学の歴史を変える定理を見つける」とか、「時効になってからも殺人事件を追い続ける」みたいな話であれば、世の中的に価値を見いだせる可能性がある。しかし、「カレーのルーツを探る」というのは、あまりにも世の中的に意味がない。しかしだからこそ、それを追い求めることの純粋さが強調されもするし、そんなまったく社会に貢献しないことに時間とお金と労力を掛けられる「情熱」の強さみたいなものが際立つ。
    著者は、妻子がいるにも関わらず、カレーについて調べるために会社を辞めた。正直、ちょっと狂ってしまっている人なのだと思う。しかし僕には、何かにそれだけ「情熱」を掛けられる、ということがとても羨ましい。
    本書は、カレーのルーツを探る旅の記録だが、その調査の過程ではほぼ何も起こらない。劇的な発見、みたいなことにはほとんどならないのだ。それでも、作品としては面白く読ませる。不思議な本なのだ。