さわや書店 おすすめ本

  • no.487
    2021/11/29UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    平場の月 朝倉かすみ/光文社文庫

    「大人の恋愛小説」のようなくくりにされると、敬遠してしまう人もいるかもしれない。本書は決してそれだけではなく、人生のなにげない1ページをいとおしみ慈しむような深い味わいがあり、噛み締めるに値する確かな滋味にあふれている。
    順調な人にも、そうでない人にも闇夜の月は等しく人々を照らす。どんなにありふれた平場の小さなアパートの一室でも、生きている限りそこにはかけがえのない一瞬一瞬が刻まれている。特別な何かではなく、日々の何でもない日常の中にこそ、幸福はあるのかもしれないと感じさせる。
    過去を振り返ることで、現在と未来を見つめ直す。軽いタッチで描かれる物語の中に、知らず知らずのうちに深く引き込まれている。著者の傑作「田村はまだか」と共に、年末に読むにはふさわしい一冊だと思う。