さわや書店 おすすめ本

  • no.537
    2023/2/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    夢も見ずに眠った。 絲山秋子/河出文庫

    2010年9月から2022年6月までの各章、象徴的な出来事が時系列順に描写されている。決して戻る事ができない時の流れを示す中で、なぜか中盤の1カ所だけ時系列が大きく過去に飛ぶ1998年11月「猫の名前」という章がある。大学時代に一人旅するその章の舞台こそが盛岡と遠野だ。ここには本書全体を通じて非常に重要なエッセンスがごくさりげない形で含まれていて、タイトルの「夢も見ずに眠った。」らしき言葉もこの章にのみ出てくる。主人公2人の過去から未来に至るまで変わらないものが示され、その舞台として時が止まっているかのような時空間が、この章にぴったりとはまっている。
    のほほんと始まる第1章からは想像もつかない所まで連れて行かれた。永遠の中の一瞬、一瞬の中の永遠。特別大きなドラマがあるわけではないのに読後、なんかすごいの読んじゃったなという気がした。