さわや書店 おすすめ本

  • no.231
    2018/4/25UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    壬生義士伝 浅田次郎/文春文庫

    『慶應四年旧暦一月七日の夜更け、大坂北浜過書町の盛岡南部藩蔵屋敷に、満身創痍の侍がただひとりたどり着いた。』
    本書は、そんな一文から始まる。
    ここにたどり着いた侍が、南部藩を脱藩し新撰組に入隊、後に「鬼貫」とまで呼ばれるほど人を斬りまくった吉村貫一郎だった。時代に抗いながら、人として真っ当に生きようと懸命に努力し続けたそんな男の生涯を、御一新から約50年後の世の中で、様々な人間に聞き歩く男がいる。様々な視点から語られる「吉村貫一郎」の姿を通じて、「人として生きること/死ぬことの意味」を痛切に感じさせられる。
    「守銭奴」と呼ばれ嫌悪されていた一方で、「あの男だけは殺してはならぬ」「能うかぎりの完全な侍」とも称された男。読み進めれば読み進めるほど、彼の生き様に称賛の拍手を贈りたい気持ちになるし、時代に流されずに自分の生き方を貫く自分でありたいと思わされる。「武士」という、時代が課す制約の中で、「武士」として真っ当でありながら時代にも逆らうというその生き方は、生きづらさの募る今の時代においても意味のある何かをずっしりと残していくことだろう。