さわや書店 おすすめ本

  • no.365
    2019/11/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    墨龍賦 葉室麟/PHP文芸文庫

    コーマック・マッカーシー脚本の『悪の法則』という映画の中で、宝石商が主人公にこんなセリフを言うシーンがある。――たとえどんなに代償を払っても、人はダイヤの持つ永遠性を追い求めようとする。それが宝石というものです。そして愛する人をダイヤで飾る事で、逆にその人の儚さに気づき、限りある命の価値を知るのです。あなたにも今に分かりますよ。――
    本書は戦国時代の絵師・海北友松の物語である。武士として生きたいと願いながらも、その魂を絵の中に吹き込み、人が生きる上での美を追求する。明日をも知れぬ命という時代の中で、一瞬の美に永遠の価値を持たせる絵を描く事は、今では想像もできないぐらい切実なものだったはずだ。人間の業や命の儚さを見ることで逆にその美しさを知る。人は理想通りには生きられないけれど、自らの思いを体現しようとするのは武士も絵師も変わらない。そして現代に生きる自分達も。