さわや書店 おすすめ本

  • no.479
    2021/10/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    垂直の記憶 山野井泰史/ヤマケイ文庫

    なぜ、そこまで…。最終章「生還」がとにかく壮絶。全く次元が違うので同列には語れないが、自分も学生時代に山をやっていたのでラストにはリアルさをもって震えながら読了した。肉体的にも精神的にも限りなく人間の限界に近い魔の下山。まさに奇跡の生還だ。
    普通の登山でも山では山行と言う。「行」というイメージが山ではしっくりくる。景色がいい、自然がいい、空気がいいなどは二次的なもので、やはりそこは自己との闘いがメインになる。そういう意味では「業」にも近いのかもしれない。自己満足だ、自殺行為だ、周りの人の心配や迷惑を考えないのか等々の意見はごもっともで理論的にも全く正しい。ただ、生きる喜びを覚えるようなひとつの事に、誰に褒められるわけでもなく命を賭けてまで限界に挑戦する姿には尊敬を感じるし、また、ある種羨ましさをも感じる。
    理論だけでは計り知れない生きることの実感とその意味。本書には世界的クライマーである著者の歩んだ道のりと、高みへの思いが刻まれている。