さわや書店 おすすめ本

  • no.477
    2021/9/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    国宝 吉田修一/朝日文庫

    歌舞伎の事はよく分らなくても、梨園に生きる人間の苦悩と誇りに胸が熱くなる。本書は重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝にまで至る天才役者の孤独と犠牲、そして鬼気迫る迫真の芸が描かれている小説だ。あらゆる役者、画家、音楽家、文学、古典芸能などを支える人も含め、それに携わる人は職業というよりも生まれ持った宿命と、そうせずにはいられない人間の業に突き動かされるものなのかもしれない。
    やはり本物を観てみたいと強く感じた。場の力というものも特に伝統芸能にはあるだろう。これは他の演劇でも音楽でも、映画館や本屋でさえ同じことが言えると思う。例えば本の質感、装丁の色彩、ページをめくる感触、リアルなインクの匂い、自分では絶対に選ぶことのない種類の本を目にする時の、そんな空気感ごとすべてが本屋だ。
    本書を読んでいて、個人的には北野武監督の映画『ドールズ』を思い出した。この映画の冒頭には人間国宝、故・豊竹嶋太夫の人形浄瑠璃文楽が出てくる。
    著者原作の映画の中では『悪人』や『横道世之介』など、原作も映画も素晴らしい。