さわや書店 おすすめ本

  • no.245
    2018/6/12UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    光のない海 白石一文/集英社文庫

    好きな小説かと問われればそうではないし、決して“いい話”でもない。ただ、読み始めると途中で止められない何かが含まれていると感じる。
    生きていれば誰しも大なり小なり人に言えない秘密や、最後まで消えない心の染みのようなものはあるだろう。程度の問題で人生の深い陰影にもなり得るし、完全に狂わされる人も紙一重の差だと思う。紙一重というより表裏一体というべきか、どちらに転ぶかそれだけの違いだ。いずれにしろ時が過ぎれば否応なく街の景色も変わり、そこで生きた人間の証しなど完全に忘れ去られるはかない命。その中で強い光は濃い影をも生み、生きてきた分だけ心にずっしりと深い闇を抱えながら、それでも人は生きていく。
    人は何のために生きているのか。
    その問いも答えも語られぬまま、それを浮き上がらせる小説だ。