さわや書店 おすすめ本
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no.5222022/9/20UP
本店・総務部Aおすすめ!
傷を愛せるか 宮地尚子/ちくま文庫
精神科の医師として臨床を行いながらトラウマの研究をする著者。専門的な話ではなく自分自身のエッセイとして書かれているため読みやすく、医師・研究者としての視点や、そこから見える景色の描写も興味深い。
生きていれば誰しも心の傷はあるだろう。普通は積極的な鈍感さをもって放っておき、触れないでおく。でもどうしても目をそらすことができない致命的な傷を負ってしまった場合は、傷を受け入れて共に生きるしかない。難しいけれどもそれが「傷を愛せるか」という事なのだと思う。そして研究者としては「傷を癒すことはできるか」という問いにもなるのかも知れない。共感力が高いほどに、相手と共に自分の心もダメージを負う。助けに向かう者は必ず自分の安全を確保しなければならない。自己と他者、治療する者とされる者、与える者と受け取る者。この複雑な世の中にあって、単純で微妙な人間同士の関係性を考えさせられる。