さわや書店 おすすめ本

  • no.563
    2023/9/5UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    一九八四年 ジョージ・オーウェル/ハヤカワepi文庫

    ディストピア小説の金字塔。
    ディストピアとはユートピア(理想郷)の真逆で暗黒世界のこと。なので当然ながら読んでいて気持ちのいいものではない。ただ、暗黒であればあるほど、ないかもしれない小さな光が存在感を増す。読書を通じて本当に大切なものは何なのかを、そこに書いてあるわけではないのに、逆に読者に対してはっきりと意識させる。それにしても、1949年に刊行された本書の示す暗黒未来には、現在の世界情勢や最近のコミュニケーションツールなども含めて、さらにリアルさを増して震撼させられる。
    同時代と言える1943年に製作されたフランク・キャプラ監督の名画『素晴らしき哉、人生!』は誰が観ても心温まるクリスマス・ストーリーだ。だがふと、映画の終盤主人公が垣間見たディストピアの世界は、実は現実の世界なのではないかという気もする。ファンタジーの中に、一瞬見せる現実世界。これがハッピーエンドの物語に深みを与えている。
    本書の場合、最後まで徹底した暗黒世界のストーリーの中、さりげない情景描写がわずかに残る最後の淡い希望に見えなくもない。そのあたりが、深みを湛えた名作なのだと思う。
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