さわや書店 おすすめ本

  • no.305
    2019/1/22UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ママがやった 井上荒野/文春文庫

    この連作短篇集の、ごく短い一篇一篇を読み終える毎に鳥肌が立ち、深いため息をつき、そして大きく唸らされる。それは、書かれていないけれども想定している物語の、含みの大きさと深さをはっきりと感じるからだ。
    八つの物語の最初と最後に事件が描かれ、それ以外は家族五人の何気ない過去の一瞬が、それぞれの視点で描かれている。何かを説明するような文章は一切なく、それでも個人と家族が十分に伝わる、印象的な一瞬が切り取られている。
    愛情も憎しみも喜びも哀しみも、微妙なバランスの上にある。ありふれた日常の中で、そのあたりの人間の陰影をここまで感じさせる短い文章に、畏れにも似た凄味を感じる。今更ながら作家というのはすごいなあと、こんなぽかんとした感想しか出てこない程、その長い余韻にやられてしばらく呆然と考え込んでしまう。