さわや書店 おすすめ本

  • no.362
    2019/11/7UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ベル・カント アン・パチェット/ハヤカワepi文庫

    たしかこういうのをストックホルム症候群と言ったか。人質とテロリストが長時間共にすることで奇妙な連帯感が生まれる。本書は1996年のペルー日本大使館公邸人質事件をモデルにした小説だ。
    (美しい歌)というタイトルの「ベル・カント」。イタリア・オペラにおける理想的な歌唱法を意味するのだそうだ。専門的な事はよく分からないが、すぐれた音楽や芸術やスポーツ、或いは傑作の映画や文学に触れた時、すぐに意味は解らなくとも一瞬にして直接心に響くことがある。そういうものはあらゆる言語や人種や思想を越えた人類共通の価値だと思う。現在の世界に蔓延する不寛容さと出口の見えない対立の中で、文化的価値の認識だけは主義主張に関係のない唯一の希望と思いたい。
    ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮共演のこの映画も楽しみである。