さわや書店 おすすめ本

  • no.403
    2020/6/24UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ブルックリン・フォリーズ ポール・オースター/新潮文庫

    好きな映画をひとつだけ挙げるとするならば、個人的には著者原作の『スモーク』だ。ブルックリンを舞台に、なんてことのない日常の中に潜む決定的な一瞬、ちょっとした奇跡を見事に切り取る傑作である。生きていくことは、恥やら挫折やら後悔やらの連続だと思う。そんな悲しくビターな現実の中にあって、スプーン半分ほどのファンタジーを混ぜてくるその甘美なバランスがなんとも言えずいい。
    本書は、人生の終盤に差し掛かるも失敗に終わってしまったと感じている男の再生の物語。同じ著者の本で「ムーンパレス」では、青年の絶望から再生を描いている。どちらの作品も悲壮感はあまりなく、厳しい現実の中でもどこか喜劇的要素も含まれ味わい深い。
    ブルックリンで思い出したが、ジム・ジャームッシュ監督の映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』も面白い。ロス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキで夜のタクシー運転手と乗客だけのショートストーリー。マンハッタンからブルックリンへ向かうニューヨーク編が好みだ。今やどの都市でもコロナやデモなどで景色が一変している事だろうが、元に戻るのをただ祈るばかりである。