さわや書店 おすすめ本

  • no.270
    2018/9/4UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ブラッド・メリディアン コーマック・マッカーシー著・黒原敏行訳/ハヤカワepi文庫

    『ノーカントリー』『ザ・ロード』『悪の法則』これらは現代のアメリカ文学を代表するひとり、本書の著者コーマック・マッカーシー原作の映画である。過酷で残酷な描写の内に、流れゆく時と不動の現実だけが残され、物語は何の逆転劇もなく幕を閉じる。これらはエンターテイメントでは決してなく、明らかに文学的叙事詩だ。
    その中に人は何を見るのか。
    受け容れ難くとも逃れようのない現実。どうもがいても絶対に取り戻すことのできない過去。時代の流れに抗う事などできず、古き良き時代に戻る事など有り得ない世界。悲観的な場面が繰り返され何の解決も見ることができないが、だからこそ、それらの事象は紛れもなく人生そのものであり、生きる事の本質を示唆しているのだと思う。
    どんな状況であれ人が生きるためには現在の事実を認め、今の一歩を踏み出さなければならない。そこには中途半端な“生きる意味”など役に立たず、もっと崇高で厳粛な“生”と“死”があるだけだ。
    万人にお勧めできるものではないが、読む者、観る者を選ぶ非常に重厚なテーマを持った作家であることは間違いない。