さわや書店 おすすめ本

  • no.146
    2017/5/9UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ヒミズ 古谷実/講談社漫画文庫

    中学生である住田の夢は、「一生普通に暮らすこと」だ。自分に、超絶的な不幸も、超絶的な幸運もやってくるはずがない。だから、普通を目指す。あらゆる場面で、影のように、目立たず、ひっそりと生きていく。
    住田は既に、自分が人生をどうにか乗り切るだけの気力がないことを悟っている。はっきりとした理由があるわけじゃない。原因がはっきりしているならば、例えば、家庭環境にそのすべての原因があるのなら、原因をぶっ叩けばどうにかなる。でも、違う。それは目に見えないものだ。言葉に出来ないものだ。誰かに伝えられないものだ。
    そんな「漠然とした絶望」の象徴として登場するのが、住田の周囲に時々現れる「謎の怪物」だ。
    住田は、「手触りのある絶望」を増幅させることで、その「漠然とした絶望」を駆逐しようとする。狂気に囚われた住田が辿り着いた結論だ。
    もしかしたら自分もこんな人間になっていたかもしれない。この作品に漂う狂気は、読者にそんな気持ちを抱かせる。