さわや書店 おすすめ本

  • no.312
    2019/3/4UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ノースライト 横山秀夫/新潮社

    久しぶりに著者の本を読む。いつもの警察小説ではないが、静謐でありながら力強い、頁をめくるごとにそれは紛れもなく、流石の横山秀夫小説だった。
    建築士のストーリーで、ル・コルビジュエやブルーノ・タウトの名前が出てくる。その芸術性や思想性に触れながらミステリーは展開していく。デザインとは何か。仕事とは、家とは、生きるとは何なのか。そして最後の瞬間に遺すべき最も大切な物は何か。大事件が起きるわけでもなく、さりげないストーリーの中に引き込まれ、やがて静かに重厚なテーマが浮かび上がる。種類は違えど、あの傑作『半落ち』を彷彿とさせる著者の真骨頂と言える。
    個人的にはまず、表紙の美しさに目を奪われた。そしてタイトルと著者名で間違いないと確信する。本の装丁はある程度その内容を表している。気に入った表紙は神経のどこかに刺さったという意味で、買っておいて損はない。今の時代、本は贅沢品だとは思う。でも、たまにはそんな贅沢な買物をしてもいいのではないだろうか。気に入った装丁だけの本棚があればきっと楽しく、より豊かな時間を味わえる。最近買ったすべての物の中で、本当に意味のあるものはいくつ得られただろう。