さわや書店 おすすめ本

  • no.316
    2019/4/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ティンカー、テイラー、
    ソルジャー、スパイ ジョン・ル・カレ/ハヤカワ文庫

    『裏切りのサーカス』という映画がある。
    一度観てよくわからず、二度観てもまだよくわからなかったが、その作り込んだに違いない重厚な雰囲気にただならぬものを感じ、さらに名作として名高い原作の本書を読んでみた。
    この解らなさは細部にある。つまり話の筋は大体解るが、底が見えない緻密さと奥深さがあり、そこが魅力のひとつでもある。そもそもわかりやすいスパイなど、その職務上本質的にありえない。東西冷戦時の英国諜報部〈サーカス〉を舞台に繰り広げられるプロ同士の情報戦。あらゆるプロフェッショナルとは、実は派手なものとは対極にある、地味な仕事一つひとつの確かさにあるのではないだろうか。
    映画を観て、本を読み終えてもなお、また始めから読み返してみたくなる。そしていつ読んでもまた、新たな発見がある。優れた文学作品とはそういうものなのだろう。
    魂は細部に宿っている。