さわや書店 おすすめ本

  • no.237
    2018/5/15UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    ダック・コール 稲見一良/ハヤカワ文庫

    読む度にいつも思う。この、重厚で静謐な美しい文章。ああこれは今、紛れもなく名作を読んでいると。
    場所や雰囲気の大きく異なる6つの短編集。その全てに野鳥が出てくるが、あまり知らなくても問題ない。共通している主題は、あくまでも男の生きざまだ。主人公たちは野鳥との邂逅の中から己の生き方を見つめる。行きつく先を本能的に知っているような野生動物は、何の打算もなく懸命に生きて死んでいく姿が美しい。
    だいぶ種類は異なるが、北野武監督の映画もある意味同系の「美」を含んでいるのではないだろうか。激しいバイオレンスの中、生き方の当然の帰結としての「死」を受け容れているところがある。限りある時間と行きつく先を知っていて、自ら死に場所を求めるような潔さの中に、本書にも似た美的感覚を見る。