さわや書店 おすすめ本

  • no.573
    2023/12/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    スワン 呉勝浩/角川文庫

    理論上頭では分かっていても、実際に経験してみないとほぼ何も分かっていない事は多くある。普通に暮らしていても、生きるのは後悔と反省の連続だ。まして非日常の出来事であれば、安全なところから頭で考える評論家など、実際の当事者に比べれば雲泥の差があるだろう。本書はショッピングモールで銃乱射という、突然のパニックに襲われる群像劇だ。
    一部始終が完結した段階でどうすれば最善の行動であったのかを知る事は誰にでもできる。ただ、それをもって単純に白黒判断し個人を断罪するなどは、実際を知らない浅はかな人間によるノイズ以外の何物でもない。消えない傷を抱え、後悔や罪の意識などを最も強く感じながら、それと共に生きていくのは当人なのだから。
    映画『ミスト』を思い出した。最も後味の悪いこの映画も、人間はどうしようもないけれども最後の最後まで希望を捨ててはいけないという逆説を表現しているのかもしれない。