さわや書店 おすすめ本

  • no.308
    2019/1/29UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ジェリーフィッシュは凍らない 市川憂人/東京創元社

    新型気嚢式浮遊艇<ジェリーフィッシュ>が発明されたという、僕らが辿ってきた歴史とは違う世界における近過去を舞台にした、「二十一世紀の『そして誰もいなくなった』」と喧伝されるミステリだ。新人のデビュー作ではあるが、その圧巻の世界観の構築の仕方に驚かされた。<ジェリーフィッシュ>が墜落事故を起こし、乗員6名全員が死亡という、当初事故だと思われていたケースが、明らかな刺殺体が発見されたことで調査が開始される、という物語なのだが、細部に渡って見事な作品だった。乗員全員死亡という状況下で何が起こったのかという、物語の根幹となるミステリの部分ももちろん素晴らしかったが、<ジェリーフィッシュ>の性能や開発秘話、それらに関わる人間模様、また乗員全員死亡という困難な調査をやり遂げる捜査官の奮闘など、一分の隙もなく物語が構成されている。
    僕らの世界には<ジェリーフィッシュ>が存在しない、という意味で、作品の舞台は異世界だが、その点を除けばほぼ変わらない。しかし、異世界であるという設定にしたことで生きる要素もあり、また、本書のミステリのトリックを描くだけであればどうしても不可欠だったわけではない<ジェリーフィッシュ>を登場させたことで、作品の背景に厚みが出る。圧倒される物語だった。