さわや書店 おすすめ本

  • no.585
    2024/3/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    コーヒーと恋愛 獅子文六/ちくま文庫

    まったくもって、無性に、コーヒーが飲みたくなる、「さわや春のおすすめ」フェアの1冊。
    コーヒー好きの集まりである日本可否会。大仰なネーミングの割には会員五名の、月イチでコーヒーを飲みながら薀蓄を語るだけの集まりであるが、のちに茶道のように可否道を極めようとする。1963年刊行、コーヒーと昭和のアロマが香り高い物語だ。
    コーヒーに限らず、何かに凝るというのは何だろう。生きるために必要なものでもなく、仕事にも家庭にも全く関係のないごく個人的な趣味。性とでも言えるだろうか。映画や音楽、酒、煙草、釣りや登山、推し、読書なども同じ部類に入るかもしれない。造詣を深めたところで実生活にはさほどの役にも立たないどころか、むしろマイナス面も大きい。でも仮に、役に立つものだけの人生だったらこれほど味気ないものもない。
    あらゆる無駄を嫌う世の中にあって、実際役に立たない無駄知識と思われていたものが、案外意外なところでつながっていたり、いなかったり。役に立つこともあったり、なかったり。まあ、ないんでしょうな。むしろないと思っていた方がよほど洗練された、高尚な趣味だとも言える。