さわや書店 おすすめ本

  • no.470
    2021/7/31UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    コリーニ事件 フェルディナント・フォン・シーラッハ/創元推理文庫

    感情を抑えた誠実な語り口のなかに、深い洞察がうかがえる。法廷裁判の過程の中で、あらゆる人間の人物像が浮かび上がる。ものの善悪と時代背景、罪の重さと量刑、関係者がそれぞれに受ける影響。人は誰しも、真っ白でも真っ黒でもないグレーな存在である以上、法律に従って線を引かなければならない。
    本筋とは関係のないパン屋の主人の話が、なぜか妙に心に残る。「あんたは弁護士なんでしょう。弁護士のするべきことをしなくちゃ」。みんなそれぞれに自分の宿命を生きている。パン屋にはパン屋の、弁護士には弁護士の。
    今はパンデミック下の無観客オリンピックで、大会関係者も医療も経済も依然厳しい状況が続いている。“あの時”のオリンピックと後々まで語り継がれる大会になるだろう。「平和の祭典」はアスリートの美しさだけでなく、それを取り巻く人間の影の部分も露呈される。
    それでも、選手には選手の、ボランティアにはボランティアの、政治家には政治家の、医者には医者の、商人には商人の、それぞれの形の中で今できるベストを、信じる生き方を歩む以外に道はない。