さわや書店 おすすめ本

  • no.624
    2025/5/16UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    もうすぐ絶滅するという煙草について ちくま文庫編集部/ちくま文庫

    百害あって一利なし。健康に悪い、他人に悪い、マナーが悪い、カネの無駄、時間の無駄、くさい、汚い、グローバルスタンダードに反する、サボっている等々…。パッケージには煙草の害が一番大きく表示され、数少ない狭い喫煙所には喫煙者が集まりモクモクと煙を立てている脇を吸わない人々が愚かで珍しい生き物でも見るように通り過ぎてゆく。まだいるのかというように…。
    これだけの屈辱感があってなお吸うという人は中毒というよりも、むしろ今やめると世間の圧力に屈したと見られるのが嫌なんだとも思う。そんなの他人から見ればどうでもいいんだけれども、なにせ自分の価値観だけを頼りに吸っている人種だから。
    本書は煙草に縁のある人もない人もそれなりに楽しめる本だと思う。錚々たる文豪42名による煙草にまつわる悲喜こもごも。吸うのもやめるのもさすがの文章だ。重鎮が多い中でかなりの異彩を放っているヒコロヒーの「仕事終わりに髪からたばこの香りが鼻をかすめるこの人生も気に入っている」もなかなか面白かった。
    さて、いつまでも意地を張ってもいられまい。遅ればせながら自分もそろそろ煙草に別れを告げる時か。別れはいつも一抹の寂しさが残る。