さわや書店 おすすめ本

  • no.287
    2018/11/6UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    まぼろしのお好み焼きソース 松宮宏/徳間文庫

    松宮宏は「奇想」を膨らませ、荒唐無稽でありながら妙なリアリティを持つ作品を描き出す作家だ。しかし、そうではない一面もある。本書は、「小学校の敷地をヤクザから借りている」という、ちょっとあり得そうもない設定が登場するが、それ以外は、神戸の下町を舞台に繰り広げられる、もしかしたら起こりうるかもしれないドタバタを描き出している。

    物語の中心にあるのは、ヤクザと言うよりは任侠と呼ぶ方が近い「川本組」という6人ほどの小所帯のヤクザと、長田の粉もん文化を支えていると言っても過言ではない「オリーブソース」の倒産危機だ。ヤクザを脱却し、地元のために出来ることをしたいと常日頃から考えている川本組の川本甚三郎親分は、若頭の山崎にオリーブソースの再建に手を貸すように命じる。ヤクザからの脱却と、地元商店街の再生、その両方が見事に融合し、人情味溢れる物語に仕上がっている。とはいえ、物語はそんなほんわかした感じでは閉じたりしない。後半の怒涛の展開からの見事な着地は、奇想をねじ伏せるようにして読ませる物語に着地させる松宮宏の豪腕が光る。