さわや書店 おすすめ本

  • no.401
    2020/6/6UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    またね家族 松居大悟/講談社

    家族は近すぎて遠慮がない分、見えないところがある。最期の時になってはじめてお互いに客観視でき、その人の全体像を見ることができるのだろう。元気なうちは分かり合えずに近くて遠い存在であり続ける。
    主人公が主宰するコアな演劇集団の中では、赤の他人だからかお互いをはっきりと理解していてリアルだ。演劇表現に対するこだわりと過剰な自意識、その矛盾。若い時代を象徴する熱くて不毛な議論は、種類は違っても誰もが少しは身に覚えがあるのではないだろうか。男のしょうもないプライドや嫉妬など、読んでいて苦笑しながらも心当たりがなくはない。忘れかけていたデリケートな部分をくすぐられるような小説である。
    それにしても、今のコロナで演劇や音楽、スポーツや芸能、お笑い、映画館、観光地、飲食店など、アルバイトまで含め非常に厳しい状況が続いているのだろうと思う。オンラインがもてはやされる中、生のライブ感やリアルの重要性は今までよりもむしろ、これからもっと評価されるべきだと思う。例えば観光地で食べるのと持ち帰って食べるのとでは同じものでも明らかに味が違う。それは調理された場の空気感ごと味わっているからだろう。舌だけ、あるいは画面だけで知り得るものなどほんの一部分であり、人間の感覚はそんなに薄っぺらなものではないはずだ。生きるためには直接必要のないものほど、意外と重要なことは多い。