さわや書店 おすすめ本

  • no.242
    2018/5/29UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ふたご 藤崎彩織/文藝春秋

    本書については、「手に取らない理由」を挙げやすい。「SEKAI NO OWARI」というバンドのメンバーが書いた本、というだけで、「SEKAI NO OWARI」が好きではないという人は読まないだろうし、芸能人が書いた本なんかいいよという人だっているだろう。僕は、個人的な感覚として、多くの人が「本を読まない理由を(積極的にせよ消極的にせよ)探している」と思っている。読まない理由を見つけられれば、どれだけ話題作でもどれだけ評判が良くても、自分がその本を読まないことを正当化出来るからだ。
    そういう意味で本書は、手に取られにくい作品だろう。
    しかし、そういう先入観をなんとか打ち破って、本書を読んでみてほしい。
    主人公の西山夏子が置かれた状況そのものに共感できる人は多くないだろう。何故なら、彼女が生きている日常は、ちょっと特殊であり得ない関係が主軸となっているからだ。しかし、そういう日常の中で彼女が感じる孤独や鬱屈や葛藤は、誰だって思い当たるだろうし、人生のどこかで通り抜けてきたものだろうと思う。
    傷つき、打ちのめされてきた人間ほど、内側に溜まっている言葉は強い、と思っている。西山夏子は、著者の藤崎彩織自身だろう。辛く厳しい時間を潜り抜けてきた者だからこそ形にすることが出来る言葉で溢れた作品だ。