さわや書店 おすすめ本

  • no.224
    2018/3/27UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    それからは
    スープのことばかり考えて暮らした 吉田篤弘/中公文庫

    みんなにオーリィさんと呼ばれることになるオオリさんは、ふらりとこの街に引っ越してきた。仕事を辞め、新しい仕事を探している最中のことだ。本来ならば仕事を探さなくてはいけないのだけど、どうにもやる気が出ない。
    「3」とだけ書かれた袋を街中でよく見かけ、何だろうと思って大家さんに聞いてみると、サンドイッチ屋なんだという。一度買ってみるとこれがひたすらに美味しい。そのうち、その店主である安藤さんと仲良くなり、その息子のリツ君とも親しくなった。いつも行く映画館では、館内でスープを飲んでいるご婦人が気に掛かる。大家であるマダムも時折声を掛けてくれるし、そういえば家の目の前には教会もある。
    そんなオーリィさんの、様々な人を介した日常を描いた作品です。
    吉田篤弘の作品というのは何だかんだ読みたい気分になってしまうのだけど、この人の描く世界はいい。ものすごく淡い色ばかり使っている水彩画を思わせる作品で、派手さはないしインパクトにも欠けるんだけど、でもなんだかずっと見ていたくなるような、ずっと見てると輪郭だけが妙にくっきりしてくるみたいな、そんな不思議な作品です。