さわや書店 おすすめ本

  • no.273
    2018/9/17UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    くすぶり亦蔵 松宮宏/講談社文庫

    本書は、「秘剣こいわらい」シリーズではあるが、本書だけ読んでもまったく問題はない。
    しかし松宮宏は、どこからこんな物語を生み出すのか、まったく理解が出来ない。
    本書は、実にシンプルな物語だ。要約すると、「路上喫煙が禁止されているマンハッタンでタバコを吸い、何度も逮捕される無口な日本人」を描く小説、となるだろう。それで小説として成立するのか?と思うかもしれないが、これがまた滅法面白いのだ。
    主人公の樺沢亦蔵は、主人公なのに、作中でほぼ喋らない。彼がすることは、「マンハッタンでタバコを吸うこと」だけであり、それによってただ逮捕されるだけなのである。しかし、彼のその行動が、想像もしていなかった様々な事態を引き起こすことになる。その騒動が実に現代的で、だからこそこの荒唐無稽な物語にリアリティを感じられる人も多いだろうと思う。
    あり得ない奇想を物語に仕立て上げ、一気に読ませる作品を生み出す手腕は、ちょっと尋常ではない。