さわや書店 おすすめ本

  • no.290
    2018/11/27UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    か「」く「」し「」ご「」と 住野よる/新潮社

    僕は、他人の気持ちなんか分からない方が面白い、と思っている。「相手のことを全部知りたい」というような人も多くいるだろうが、僕は、分からない部分があるからこそ面白いと思うタイプだ。どれだけ掘り下げてみても、捉えきれない部分がずっと残ってくれる方が、その人に対する興味が持続する。だから、他人の気持ちは分からないで欲しい。
    本書では、他人の感情が様々な形で分かってしまう5人の高校生の物語だ。著者は、一見安易に思いつきそうなこの設定を、リアルに突き詰めて物語に落とし込む。
    5人とも皆、そういう能力を持っているのは自分だけだ、と考えている。だから、そういう能力があることは悟られてはいけない。でも、知ってしまった感情を無視するわけにもいかない。結果的に皆、周囲にいる人間のために何か行動を起こすことになる。
    しかし、他人の感情が見えすぎるせいで、5人ともが皆、自分は冷たい人間だというような自己評価をする。あいつはこんなにちゃんとした奴なのに自分は…と思ってしまうのだ。
    他人の感情が見えすぎることが、彼らのパーソナリティに少なくない影響を及ぼし、さらにそれが5人全体の関係性にまで波及していく。非常に繊細で、こんな感情を持ったり、こんな行動が出来たりするなら、他人の感情が見えすぎることも悪くはないのかもしれない、と思えた。