さわや書店 おすすめ本

  • no.36
    2016/7/27UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ある奴隷少女に
    起こった出来事 ハリアット・アン・ジェイコブズ/大和書房

    19世紀末。奴隷制度が続いていたアメリカで、一人の奴隷少女が綴った記録、それが本書だ。しかし本書は、発行から100年近くもフィクションだと思われていた。奴隷が書いたとは思えない聡明さ、そしてその壮絶という言葉では表現しきれない人生が、現実を描写したものだとは思われなかったのだ。
    優しい女主人に見守られ、奴隷であると自覚しないまま育った少女時代。しかし女主人の死によってジェイコブズは、ある白人医師の元へ売られる。そこから始まる彼女の壮絶な人生。強姦の横行、7年間の屋根裏部屋での生活、そして不埒な医師から逃れるための勇気ある決断。そのどれもが、僕らの心を揺さぶる。
    現代に生きる僕らにはそれがどれほど醜悪なものであるか分かるが、奴隷制度はかつて当たり前のものだった。僕らが生きる時代にも、様々な「当たり前」がある。それらは、100年後振り返ってみても正しいと思えるか。本書は僕らに、そんな問いも突きつけるのだ。