さわや書店 おすすめ本

  • no.165
    2017/8/9UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    あがり 松崎有理/東京創元社

    北の方のとある街にある蛸足大学(色んな学部が蛸足のようにあちこちに散らばっている大学)を舞台にした5編の短編が収録された連作短編集だ。理系大学の研究室が主な舞台になっているのだが、決して理解の知識がなければ理解できない作品というわけではない。理解の研究室は本書の中で「何かが起こりうる場所」、つまり「物語が始まる場所」として捉えられている。まさに科学の、そして人類の新たな発見が生み出される最先端である場である研究室という性質をくっきりと浮かび上がらせながら物語を生み出していく。そのスタンスがとても気持ちのいい作品でした。
    一番好きな作品は「不可能もなく裏切りもなく」だ。ここで出てくる「遺伝子間領域」に関する仮説も見事だったし、何よりも、おれと友人を取り巻く、本当に狭い世界でのどうにもならない関係性みたいなものが本当に素晴らしかった。その場に身を置いていない人間には到底届かない感情の深さみたいなものをほんの一瞬だけど見えるようにしてくれている感じが素晴らしいと思う。