さわや書店 おすすめ本

  • no.196
    2017/11/28UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    A
    マスコミが報道しなかったオウムの素顔 森達也/角川文庫

    この作品を読んだ時の衝撃は相当なものだった。
    地下鉄サリン事件が起こったのは確か、小学校の卒業式の日だったと思う。オウム真理教が起こした未曾有の大事件は、その後の日本社会を大きく変質させた。
    しかし、オウム真理教とはどんな存在なのか、それを正確に掴もうとした者はほとんどいなかったのではないか。本書の著者、森達也を除いては。
    森達也は、一介の雇われテレビディレクターだった頃、オウム真理教の内部にカメラを持って潜入し、オウム真理教の内側から社会を覗く、ということをやってのけた。それはドキュメンタリー映画として結実するが、本書はその書籍版と言っていい。上祐史浩に変わってオウム真理教の広報担当になった荒木浩にアプローチをし、モザイクを一切掛けない取材を了承させ、オウム真理教の信者を撮りながら、一方で社会も切り取っていく。そうした中で森達也は、「社会の思考停止」というキーワードを拾う。そして、オウム真理教を通じて社会を覗く中で、森達也は自分自身をも覗くことになる。
    マスコミとは何か、社会とは何か、そしてオウム真理教とは何だったのか。答えの出しようのない問いを問い続ける森達也の覚悟が滲み出る一冊だ。