さわや書店 おすすめ本
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no.6222025/5/5UP
本店・総務部Aおすすめ!
恥辱 J.M.クッツェー/ハヤカワepi文庫
偏屈、頑固、バツ2。そして女に目がない大学の准教授が、学生に手を出し訴えられ墜ちてゆく物語。職を失い娘のところに身を寄せる中、更なる悲劇が父娘に襲いかかる。同じような屈辱と恥辱を与えられながらも、親子で対処の方法が対照的だ。男性と女性の違いか土地の違いか、プライドの示す方向が真逆である。乾いた文体で淡々と語る主人公は自分が悪いとは思ってもいない。にもかかわらず、最終的にはこの一連の経験により人間の逞しさや美しさ、そして愛について悟る。
この物語は南アフリカの政治的な問題や人種問題などが背景にあるのだろうけれども、それとは関係なく純粋に小説として面白い。最近は政治家や芸能人などのスキャンダルでその職を追われるような事態を多く目にするが、自分は常に清廉潔白のような顔をして人の過ちだけをみんなで叩くような風潮はいかがなものかと思いつつも、そんなゴシップについ目がいってしまう。恥辱にまみれてなお、どう振る舞うかがその人の真価が問われる場面だろう。少なくとも正論を盾にただ叩きまくるだけの人よりは多くを学び、人生経験を積んでいることだと思う。