さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.28
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    ドアの向こうのカルト
    9歳から35歳まで過ごしたエホバの証人の記録 佐藤典雅/河出書房新社

    著者は現在、「東京ガールズコレクション」を仕掛けるなど、その方面では著名なプロデューサーのようだ。しかし、タイトルにもあるように彼は、9歳から35歳まで「エホバの証人」の信者として生きてきた。
    本書は、彼が何故「エホバの証人」を信じるようになり、そして何故「エホバの証人」から抜け出すに至ったのか、その過程を描いた作品だ。
    「エホバの証人」の話、と言われると、ちょっと特殊な経験だと思ってしまうだろう。しかし本書には、こんな文章が出てくる。
    『洗脳に関して言うと、私のカルト体験談は確かに特殊で極端な環境だった。しかし程度の差こそあれど、広い意味での洗脳は社会のあらゆる所で見られる』
    テレビやインターネットや口コミ。こういったものを無条件に信じることも、ある意味では「洗脳」と言える。そういう「洗脳」からいかに外れたところで生きていけるか。本書はそういう示唆も与えてくれる一冊だ。

  • no.27
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    炭素文明論
    「元素の王者」が歴史を動かす 佐藤健太郎/新潮選書

    『こうした本を書いたのは、ひとつには化学に対する関心の低さを、少しでも改善したいという思いがあったためだ』
    そう著者は語る。
    本書は、世界の歴史に影響を与えたいくつかの「炭素化合物」を取り上げ、それらを軸に世界史を眺めてみるという、非常に面白い視点で描かれた化学と歴史の本だ。「炭素化合物」と書くと難しそうだろうが、簡単に書けば「デンプン」「砂糖」「ニコチン」「カフェイン」などのことだ。
    内容も、「昆布のお陰で薩摩藩は倒幕出来た」とか、「紅茶がアメリカ独立のきっかけになった」とか、「アメリカ最初の植民地は、ビール不足によって決定された」みたいな話が展開されていく。そう言われると難しい印象は薄れるのではないだろうか?
    歴史も化学も得意ではない僕が全ページの9割以上をドッグイヤーした一冊だ。

  • no.26
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    天空への回廊 笹本稜平/光文社文庫

    今世界を救えるのは、エベレストにいる主人公ただ一人。
    ハリウッド映画のようなそんなスペクタクルでスリリングな物語が展開されていく作品だ。
    真木郷司は世界でも有数のクライマーで、エベレストへの登攀に挑んでいる。しかしその最中、大規模な雪崩に巻き込まれてしまう。なんとか生還した郷司だったが、親友は行方不明のまま。すぐにエベレストは入山禁止となり、アメリカ軍がやってきたことで不穏な様相を呈していく。説明によれば、エベレストに落ちたのは隕石ではなく衛星で、郷司は、回収作戦を行うので協力してはもらえないか、と打診されるが…。
    『エベレストの山頂付近に衛星が墜落した』という設定から、まさかこんなとんでもない物語が展開されるとは思ってもみなかった。二転三転どころの展開じゃない。色んな人間がそれぞれの思惑を隠したまま行動し、それが徐々に明かされていくことで、驚きの展開を生み出すのだ。

  • no.25
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    私の男 桜庭一樹/文春文庫

    地震で家族を失った当時9歳だった花を、海上保安庁に勤めていた当時25歳だった淳悟が引き取る。この花という養女と淳悟という養父の物語だ。
    二人は淫靡な関係にある。花は吸い付くようにしていつも淳悟に寄り添って生きてきた。気持ちだけではなく、身体も寄り添いながら、長い時間を掛けて汚れきってしまった一組の男女。親子という壁を超え、男女という関係さえも超越したところで、二人は二人だけの世界を築いて生きていく。
    物語は、時系列を逆に辿るような形で進んでいく。第一章では、24歳になった花が大企業の重役の息子と結婚する話が描かれ、そこから少しずつ何か皮を剥いていくような感じで時間を遡っていきながら、禁忌の愛を描き出していく作品だ。

  • no.24
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    TOKYO
    0円ハウス0円生活 坂口恭平/河出文庫

    本書は、著者が早稲田大学の建築学科に通っていた頃に行った卒論のための調査がベースになっている作品だ。
    著者はホームレスの方々が住んでいるダンボールハウスを「0円ハウス」と名付けた。そしてそれらが、どれだけ機能的で創意工夫がなされているのかを知るようになっていくのだ。
    著者が0円ハウスに対して抱いた最も素晴らしい点は、「生活に合わせて家を作る」というものだ。僕らが家を建てる時、様々な選択肢があるとはいえ、基本的には既存の間取りやサイズなどから様々なものを選び取っていく。つまり、「家に生活スタイルを合わせる形」だ。しかしホームレスの方々は、まず生活スタイルが先にあり、それに必要な環境を実現させるために家を建てる。発想が真逆なのだ。
    本書は、ダンボールハウスを建築学的な観点から捉え直した意欲作なのだ。

  • no.23
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    俺たちのBL論 サンキュータツオ×春日太一/河出書房新社

    BLなんて興味がない、と感じる人が多いことは知っている。しかし既に、興味が持てなくても知識として知っておかなければならない状況に来ている。というのも、ヒットするドラマやCM、芸人などの背景には、BL的な捉えられ方が、そして「腐女子」と呼ばれるBLをこよなく愛する人たちの存在があるからだ。本書の冒頭では、BLを知らずにマーケティングだなんてちゃんちゃらおかしい、というようなことが書かれている。
    しかしでは、BLそのものを読むことなしにどうやってBLを知ることが出来るだろうか?
    そのための最良の一冊が本書だと言えるだろう。タイトル通り、男がどうBLを捉えるべきか、という観点から書かれているので、男だけではなく、今BLに関心のない女性にも最良のテキストになり得る一冊である。
    もちろん、ビジネスに役立てようとしなくても、BLというのは、男が読んでも面白いものだ、ということも、併せて理解していただけたらいいなと感じる。

  • no.22
    2016/7/20UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    キャパの十字架 沢木耕太郎/文春文庫

    「崩れ落ちる兵士」と題された、一枚のとても有名な戦争写真がある。著者はこの写真について、『写真機というものが発明されて以来、最も有名になった写真の一枚でもある。』と言っている。
    この写真は、ロバート・キャパという、戦争写真家として数々の傑作を残したカメラマンが撮った、スペイン戦争時に、共和国軍兵士が反乱軍の銃弾に当たって倒れる瞬間の写真だ、と言われている。
    かねてより多くの謎が指摘されてきたこの写真について著者は調査を進めることになる。半世紀以上前に撮られた写真について、撮影者がほぼ何も語らなかった中で、真実を捜しだすという行為は困難を極めるが、著者は、緻密な取材と執念深い観察、そして大胆な着想などを組み合わせ、誰も想像しえなかった驚くべき地平まで読者を連れて行くことになる。
    まさにミステリ小説でも読んでいるかのようなスリルと興奮を味わうことが出来る、珠玉のノンフィクションだ。

  • no.21
    2016/7/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    全ての装備を知恵に置き換えること 石川直樹/集英社文庫

    写真家・登山家・探検家・冒険家。いろいろな肩書きが考えられますが、「旅人」が本書には最もふさわしいかもしれません。自然を相手に様々な事に挑戦し続ける著者、28歳時点発行のエッセイ集です。自分の足で現地へ行きその空気を吸った人にしか書けない、素直な瑞々しい文章が光ります。テクノロジーの発達により装備が充実し何をするにも楽になった現代、同じぐらいのボリュームで人間が本来持っている能力や知恵も同時に失われつつあるのかもしれない。そんな事を考えさせられますが、そんな事よりも何よりもまず、強烈に旅に出たくなる本です。インターネットなど見ている場合ではありません。

  • no.20
    2016/7/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    素晴らしい一日 平安寿子/文春文庫

    よくデビュー作には「その作家の全てが入っている」と言われますが、本書の表題作がそのデビュー作で他5つの短編集になっております。タイトルはかなり明るく前向きな響きですが、ほぼ全ての話において素晴らしくない状況から入って、しかも事態はほとんど好転しません。それなのに読後感は素晴らしい。ダメな人物もたくさん出てきますがそれも含め、読後にはほほえましく感じるから不思議です。そういう意味では大好きな「インザプール」「空中ブランコ」等(奥田英朗著)の伊良部先生シリーズと共通する部分があるように思います。何ひとつ治療したわけでも解決したわけでもないのに心が軽くなるという点において。(平成28年7月現在は品切れ中です)

  • no.19
    2016/7/20UP

    フェザン店・松本おすすめ!

    キリンビール
    高知支店の奇跡 田村潤/講談社+α新書

    アサヒスーパードライが世を席巻した1990年代半ば。社内で苦戦エリアと位置づけられる高知支店に赴任を命ぜられた著者が、厳しい戦いを経て2年後にトップシェアを奪い返せたのは何故か?それは、どの業界にも応用が効く「営業の真髄」を得たからという内容の1冊。突破口となったキーワードは「現場」。そのエッセンスを、ダメ支店からの逆転劇を疑似体験しながら学んでください。この紹介を目にしたあなた、これはチャンスです。