さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.2032018/1/9UP
本店・総務部Aおすすめ!
成熟脳 黒川伊保子/新潮文庫
歳を重ねる事に勇気をもらえる本。脳を単なる入力装置として見るならば28歳がピークだそうだが、どれだけ膨大なデータを入力したとしても出力性能が良くなければ意味がない。様々な経験と知識を重ね合わせてどんな結論を導き出すか。あるいは何気ない自然の中から、物事の本質を直感したり美しさに感動したりする能力は出力の質であり、入力する能力とは真逆の方向性だ。いかに不要な回路を切り捨て、大事な部分を残すかという脳の作業は56歳からが最も発揮されるように、あらかじめプログラムされているという。
関係ないかもしれないが、例えば次のような映画を観た時の感じ方は、歳によって変わってくるのではないだろうか。『スモーク』『ストレイト・ストーリー』『マグノリア』『めぐりあう時間たち』『美しい人9lives』『アキレスと亀』『歩いても歩いても』など、理屈や派手さのない味わい深さ。その深度には、違いが表れると思う。 -
no.2022017/12/27UP
フェザン店・長江おすすめ!
天使のナイフ 薬丸岳/講談社文庫
妻の祥子を少年三人組に殺された、コーヒーショップの店長桧山。当時犯行を行った少年らは、少年法の恩恵の元に、大した罪に問われぬまま、社会に戻ってきた。桧山は、以来止まってしまった時間と、否応なく進み続ける時間の中で、懸命にふんばってきた。
今桧山は、一人娘の愛美とともに、穏やかな生活を送っている。しかしそんな日常は、刑事の登場によって一気に突き崩される。当時、祥子の事件を担当していた刑事がこう告げたのだ。
少年Bが殺された。
少年Bとは、祥子を殺した少年三人のうちの一人。コーヒーショップ付近にある公園で殺されているのが見つかったのだという。
一体誰が何のために少年Bを殺したのか。桧山は、少年Bが過ごした更正施設や、少年AやCについても調べていくようになる。今起きている事件は一体何なのか。そして、過去のあの事件は一体何だったのか…。
桧山という男が、少年法や社会という壁に立ちすくみ、それでも前進に繋がると信じて行動を起こす物語だ。中盤から終盤にかけての展開の速さと見事さには舌を巻かれる。 -
no.2012017/12/27UP
本店・総務部Aおすすめ!
蒼天見ゆ 葉室麟/角川文庫
普段、あまり時代小説を読む方ではないがなんとなく手に取った一冊。読んでいる途中で著者の葉室麟さん死去のニュースを目にし、本との出会いの不思議さや一期一会を感じるとともに、より深く本書が沁みた。幕末から明治にかけて、世の中の価値観が大きく変革する時代に、武士の矜持を貫いた最後の仇討ち。人間が生きていくうえでどうしても避けては通れない矛盾と信念との葛藤の中で、「青空を見よ」という教えが最後まで心に光り続ける。
あまり関係ないが、青空派の小説としてどうしても思い出すのが辻内智貴著「青空のルーレット」。たしか、あとがきの青空に対する思いも素晴らしかったと記憶している。 -
no.2002017/12/19UP
フェザン店・長江おすすめ!
高砂コンビニ奮闘記
悪衣悪食を恥じず 森雅裕/成甲書房本書は、かつて江戸川乱歩賞を受賞した作家で、現在無職で生きていくのもギリギリの生活をしている著者が、50代半ばにして初めてコンビニアルバイトをした顛末を描いた作品です。
高砂にあるコンビニは、著者が働き始めてから13ヶ月で閉店してしまったようですが、そこでの仕事、同僚、奇妙なお客さんなどなど、コンビニバイトの裏側を描いています。
というだけでは特に面白くもなんともないエッセイという感じがするでしょうが、本書は「芸大を優秀な成績で卒業し、作家として辛口の書評家に評価された、これまでずっとフリーでやってきた中高年が、突如生きるためにコンビニバイトをする」という視点の新鮮さがなかなか面白い。著者が働いていたコンビニはちょっと客筋が悪かったようで、日々色んなトラブルが起こるし、スタッフとのめんどくさい人間関係もある。そんな中で、出来るだけ真面目に仕事をしたいと思っている著者のままならなさと、50代にしてコンビニでアルバイトをしているという卑屈さなどが入り混じって、読み物として面白い作品に仕上がっている。 -
no.1992017/12/13UP
フェザン店・長江おすすめ!
自由をつくる
自在に生きる 森博嗣/集英社新書「もっと自由になりたい」という希望を持っている人は多いのではないか。しかし、それは具体的にどうなることなのか、はっきりと説明できるだろうか?本書を読むと、「実は不自由でいる方が楽なのかもしれない」と思う人もいるだろう。漠然と「自由」を追うだけでは「自由」は手に入らない。
多くの人の日常は、「無意識の内に不自由を受け入れること」で成り立っている。そこから無理矢理出ようとすれば「自由」を手に入れられるが、それはあなたが本当に望んでいる「自由」なのか?
『僕がいいたいのは、「自由」が、思っているほど「楽なものではない」ということである。自分で考え、自分の力で進まなければならない。その覚悟というか、決意のようなものが必要だ。』
人生に何を望み、どう生きたいのか。腰を据えて考える、いいテキストになるのではないかと思う。あなたが望んでいるものは、あなたが望んでいる先にはないのかもしれない。 -
no.1982017/12/13UP
本店・総務部Aおすすめ!
おもかげ 浅田次郎/毎日新聞社
表紙が美しい。本書は一人の定年を迎えた男を中心にした、その周辺の人々による群像劇である。人は誰でも意識の底に、誰かのおもかげを抱えながら生きている。普段は忘れている遠い記憶に想いを馳せるような、そんな物語だ。最後の方は温かい涙を誘う安定の浅田次郎節。なにかと慌ただしい師走だが、ふと過去をふり返ったりもするこの時期に、ぴったりの一冊だと思う。
古い名作映画『市民ケーン』を思い出した。 -
no.1972017/12/5UP
フェザン店・長江おすすめ!
二人静 盛田隆二/光文社文庫
町田周吾は、食品会社に勤めるサラリーマン。パーキンソン病で母を亡くして以来、めっきりと老けこんでしまった父親の介護の問題に、頭を悩ませている。近くののぞみ苑に預けることを決めたが、あくまで短期入所が原則。根本的な解決にはならない。のぞみ苑で父親を担当してくれる乾あかりという女性と親しくなる一方で、万引きがきっかけであかりの娘と関わることになる。場面緘黙症という情緒障害を抱える志保は、人前で喋ることがなかなか難しい。周吾は、父の介護という問題を抱えつつも、そんな二人とも関わりを持とうとするが…。
彼らは皆、ささやかな日常を得たい、あるいは守りたいと、それだけを希望に生きている。もの凄く大きなことを望んでいるわけではないし、彼らが望んでいることを難なく実現している人もたくさんいる。でも彼らには、境遇や状況や環境がそうさせない。ささやかな日常さえも、努力しなくては勝ち得ることが出来ない。時に諦めそうになったり、必死で無理をしたり、そんなことを繰り返しながら人生に立ち向かっていく姿を描く様が良い。 -
no.1962017/11/28UP
フェザン店・長江おすすめ!
A
マスコミが報道しなかったオウムの素顔 森達也/角川文庫この作品を読んだ時の衝撃は相当なものだった。
地下鉄サリン事件が起こったのは確か、小学校の卒業式の日だったと思う。オウム真理教が起こした未曾有の大事件は、その後の日本社会を大きく変質させた。
しかし、オウム真理教とはどんな存在なのか、それを正確に掴もうとした者はほとんどいなかったのではないか。本書の著者、森達也を除いては。
森達也は、一介の雇われテレビディレクターだった頃、オウム真理教の内部にカメラを持って潜入し、オウム真理教の内側から社会を覗く、ということをやってのけた。それはドキュメンタリー映画として結実するが、本書はその書籍版と言っていい。上祐史浩に変わってオウム真理教の広報担当になった荒木浩にアプローチをし、モザイクを一切掛けない取材を了承させ、オウム真理教の信者を撮りながら、一方で社会も切り取っていく。そうした中で森達也は、「社会の思考停止」というキーワードを拾う。そして、オウム真理教を通じて社会を覗く中で、森達也は自分自身をも覗くことになる。
マスコミとは何か、社会とは何か、そしてオウム真理教とは何だったのか。答えの出しようのない問いを問い続ける森達也の覚悟が滲み出る一冊だ。 -
no.1952017/11/28UP
本店・総務部Aおすすめ!
うそつき、うそつき 清水杜氏彦/ハヤカワ文庫
小学生の頃から、嘘をついてはいけませんと教わるのは、人は嘘をつく生き物だからだ。必要悪とは言え、嘘はいずれにしろ周りを傷つけ、最終的には本人をも苦しめる。それが経験的にもわかっていながら、それでも哀しい嘘をつく人間の性。そんな複雑な、人の心を描いている物語だ。
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no.1942017/11/28UP
本店・総務部Aおすすめ!
ざわつく4コマ せきの/ワニブックス
ネットで話題だそうだが、紙の方がよりいい味出すと思う。笑いのツボがダークで狭くて、込み上げる。ちょっと病んでる人にハマりそうな気がする自分も、どこかヤバいんだろうか。大なり小なり病んだ世界のすき間に、この4コマは効く。