さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.343
    2019/8/6UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    福袋 朝井まかて/講談社文庫

    江戸の乾いた風が吹き抜ける、8話の傑作短篇集。最初の「ぞっこん」だけで心をすっかり掴まれて、後はもう安心して名作古典落語を観ているかのようにラストの「ひってん」まで突き進む。いやあ、すっきりとしていて何とも言えず、いいなあと思う。
    この「いいなあ」という感じを言葉にしようとすると一気に野暮になってしまう。ただ、説明できないこの好ましい感覚が短い文章を読むだけで、一発で伝わるという事は現代の日本に於いてもなお、この「粋」がどこかに残っているという他ならぬ証拠だろうと思う。本書のような小説を読むことでいいなあと感じることができるのを、ちょっと誇らしげにも思う。

  • no.342
    2019/7/28UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    イノベーションのジレンマ クレイトン・M・クリステンセン/翔泳社

    ビジネス版「失敗の本質」。優良企業が破壊的イノベーションに直面した時、その会社を成長させてきたシステムや長所そのものが、失敗を招いてしまう可能性を示唆している。実績のある大企業が破壊的イノベーションに失敗しないためにはどうするべきか。見方を変えれば、実績のない小さな会社が上位企業のどこを狙えば進出できる可能性があるのかという事も、同時に示していると思う。
    かなり前に出版された本なので、紹介されている事例などは古いものの、言っている事自体は現在でも全く色あせていない。本書はサクセスストーリーや美談のようなものではない。ビジネスの本質を見抜く名著だと思う。

  • no.341
    2019/7/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    罪と罰 フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー/新潮文庫

    例えば映画で言えば、『市民ケーン』や『東京物語』、『地獄の黙示録』或いは『ノーカントリー』などは、面白いかどうか以前に、絶対に避けて通ることのできない不朽の名作だと思う。本ならば、ノンフィクションではフランクルの「夜と霧」。ドストエフスキーなら本書か「カラマーゾフの兄弟」などは、一生に一度は読んでおくべき種類の名著だ。
    とはいえ、読書感想文課題図書みたいにあまり構えて読む必要はない。翻訳ものに付きまとう名前の呼び方に対する違和感など、細かい点はすっ飛ばしていいと思う。大まかなストーリーだけを追えれば十分だ。すぐに意味が判る事が重要なのではなく、まずは一度読んでおくという事が何よりも重要な点だと思う。時代の変化に関わらない普遍的な人間の本質を衝いているので、無意識にでも必ず心のどこかに永く残り、時間とともに人間的な厚さや深みを増していく。
    名作は後から効いてくる。

  • no.340
    2019/6/29UP

    フェザン店・竹内おすすめ!

    線は、僕を描く 砥上裕將/講談社

     ―もうこれ、2019年の上半期ベスト1です!―
    「水墨画」がテーマになった珍しいジャンルの小説。のめりこんでしまうストーリー展開も登場人物の心の動きもまるで絵が浮かぶような水墨画のシーンも何もかもが凄いです。今年の講談社メフィスト賞を受賞しました。新人にあるまじき筆力です。ほんと凄かったとしか言いようがないのです。

  • no.339
    2019/6/29UP

    ORIORI・佐々木おすすめ!

    ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい クリスティン・バーネット/角川文庫

    ―できることに目を向ける大切さ―
    重度の自閉症と診断された子供が9歳でノーベル賞級といわれる研究者になるまでの家族の物語。幾多の困難な状況下でも「できること」に焦点を当て子供に向かい合う母親の姿は、子育てだけではなく、学校や職場においても大切なことを教えてくれます。

  • no.338
    2019/6/29UP

    本店・佐藤おすすめ!

    海の生きもの つかまえたらどうする? 杉本幹・松橋利光・こばようこ/偕成社

    『生きもの つかまえたらどうする?』
    『海の生きもの つかまえたらどうする?』
    ―自然とふれあう夏休みに大活躍の2冊―
    自然の中で遊ぶ機会が多い夏休み。庭・公園・田んぼ・畑・川の周辺。そして海。たくさんの小さな生き物に出会えます。つかまえたい!つれて帰りたい!でも飼い方は?飼えなくなったらどうする?…など、この本を読むと、そんなポイントがひと目でわかりますよ!

  • no.337
    2019/6/29UP

    松園店・山崎おすすめ!

    「秋田のターシャ」と呼ばれて 佐々木利子/主婦と生活社

    ―秋田で活躍するスローライフに注目―
    標高2236メートルの名峰鳥海山が目の前にそびえ立つ風光明媚な土地秋田県にかほ市。山のふもとの小さな部落にガーデンカフェを経営されている佐々木さん。美しいイングリッシュガーデンの1年間の風景とこの土地で育てた恵みで作られた料理などを紹介。

  • no.336
    2019/6/29UP

    本店・大池おすすめ!

    一人盆踊り 友川カズキ/筑摩書房

    ―友川カズキを読め―
    フォーク歌手、友川さんの新旧のエッセイをまとめたものです。友川さんといえば酒。作家の中上健次さんと飲んだ話が面白い。憧れの作家と緊張しながら、徹底して呑みましょうと朝からビールを飲み始め、最後は新宿ゴールデン街で次の日の朝まで飲んでいたそうです。やっぱりと思い、笑いながら読みました。

  • no.335
    2019/6/24UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    138億年宇宙の旅 クリストフ・ガルファール/ハヤカワ文庫NF

    あれはどこの山だったろう。北アルプス山中の高所で寒い夜だったと思う。ふとテントの外に出てみると、空一面が星だった。普通は見えない星と星の間までもがすべて星で、取り囲まれたような視界。ただ言葉を失い魅入っていると、思わず「オェッ」としたのを覚えている。今思うとあの反応は、一見して自分の理解の範囲を超えていると直感したからかもしれない。とにかく吐き気がするほど美しかった。
    本書は物理学としての宇宙のイメージをわかりやすく伝える本なので、読んでいる間中ずっと意識を宇宙へ持って行かれる。とはいえディープな論理物理学の内容も含まれるのでうまくイメージできない部分もあるが、それも含め頭がクラクラして宇宙酔いした気分になる。自分の理解を超えたイメージに、やはり「オェッ」とするのである。
    関係ないが、1988年に劇場公開されたアニメ『AKIRA』を思い出した。

  • no.334
    2019/6/17UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    八甲田山死の彷徨 新田次郎/新潮文庫

    現在、中劇の「午前十時の映画祭」で上映しているのは『日本のいちばん長い日』、そして次回作6月28日から始まるのが本書原作の『八甲田山』。この2本は、やはり一度は観ておかなければならない映画だろう。日本人と戦争というものを如実に表している。
    後から冷静に判断して、評論や批判だけすることは簡単である。しかしそういった分析と、実際に決断し実行する能力とは、完全に別物だろうと思う。一見すると単純なストーリーに見えるかもしれないが、この重厚な人間ドラマをぜひ原作と共に読み取ってほしい。青森県、岩手県では特に必読の一冊と言える。