さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.417
    2020/9/28UP

    外商部・栗澤おすすめ!

    沖晴くんの涙を殺して 額賀澪/双葉社

    ――ハンカチ必須の物語をぜひ。――
    主人公は先の震災で家族を失い、とある港町の高校に転校してきた少年。
    感情を失っていた彼が、余命いくばくもない女性と出会うことで何かが変わり始めますが…。
    人間らしく生きるとはどのようなことか。
    涙なくしては読めない感動小説が、ここに誕生しました。

  • no.416
    2020/9/19UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    読書について ショーペンハウアー/光文社古典新訳文庫

    読書の秋だが、まずは読書そのものの功罪を考えてみるのもいいかもしれない。本は量ではなく質だろうという事が、著者特有の辛辣さで表現されている。本書は徹頭徹尾「自分の頭で考えろ」というのがテーマだ。
    多読する人は次から次へと他人の考えや感情などが入ってくるので、気が付くと自分の実体験が少なく、何事にも評論家的な考え方しか出来なくなる。現代で言えばSNSなども全く同じような状況だろう。バーチャルで流行を追いかけているうちに、いつの間にか他人の考えや評価が自分自身の思考や価値基準になってしまう。
    本でも映画でもそうだが、読んだ時にはあまり意味がわからずに、でもどこか頭の中に残り考え続け、しばらく経ってからふとした瞬間にああそういう事かと腑に落ちる時がある。こういう時に読書が本当の意味で血となり肉となっているのだろう。
    それにしても、これだけ時代が変わり価値観や技術も変わっているというのに、その主張が全く古くならないというのもかなり凄い事だ。本でも音楽でも映画でも古典として残るものにはそれだけの大きな価値がある。良いものはいつの時代でも熟読、再読に十分値する。

  • no.415
    2020/9/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    王女マメーリア ロアルド・ダール/ハヤカワ・ミステリ文庫

    大人向けのショートミステリー。ちょっとしたブラックジョークのように軽く読めて面白く、また、深く読んでも唸らせるだけの奥行きがある。書かれていない部分の幅が読む人によってかなり違ってくるだろう。そのあたりも大人向けたるゆえんである。
    特にラストの表題作「王女マメーリア」は、非常に短い文章の中に絶妙な毒を含ませた見事な幕切れだ。

  • no.414
    2020/9/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    戦場のコックたち 深緑野分/創元推理文庫

    戦争映画の中で、個人的にベストは『地獄の黙示録』だと思っている。戦争の悲惨さや反戦だけを訴えているわけではなく、人間の二面性を描いているからだ。人間が本来持っている善良さと狂気。状況によっては誰しも、光と影のように同じ振れ幅をもって現れる。そういうものかもしれないと自覚する人と、自分だけは絶対に違うという人とでは決定的な差があるように思う。真面目な人ほど危険である。例えばそれは、自分だけは詐欺に遭わないと思う人ほど詐欺に遭いやすいのと同じように。
    本書はミステリーという形式を取りながらも、本質的には人間の二面性を描いていると思う。戦争という異常な状況下であぶり出される人間本来の光と影。その先に、戦争や人種差別などの無意味さが浮き彫りになる。主人公が料理に興味を持つきっかけでもある、祖母の存在とその教えが非常に効いている。

  • no.413
    2020/8/29UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    世界のエリートはなぜ
    「美意識」を鍛えるのか? 山口周/光文社新書

    仕事に役立つ小説で何かお勧めの本をと尋ねられた事がある。考えすぎる傾向の私はその時、相手の仕事とその意図を慮ったあげくパっと言えずに、「むしろ仕事に全く関係のない、何気なく手に取ったような本の方が、意外とヒントが見つかるかもしれない」と答えた。苦しまぎれ半分、本当にそう思うのも半分に。
    本書では文学の重要性にも触れているので少し引用してみる。『古代ギリシアの時代以来、人間にとって、何が「真・善・美」なのか、ということを純粋に追求してきたのは、宗教および近世までの哲学でした。そして、文学というのは同じ問いを物語の体裁をとって考察してきたと考えることができます。』
    文学だけでなく、おそらくは映画、音楽、舞台、デザイン、美術などあらゆる芸術にも同じ事が言えるのだろう。予測困難な未来に対して重要な意思決定を迫られる時、ひとつの大きな指針にもなり得るものがそこには含まれている。即効性はなくとも、自分の中に確固たる「内なるモノサシ」を持つための何かが。

  • no.412
    2020/8/21UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    雑草はなぜそこに生えているのか 稲垣栄洋/ちくまプリマ―新書

    観察者の感受性によって、ひとつの事実にも複数の深い意味を与えるような事がある。植物の話でも動物の話でも、その生態の事実に“意志”を感じさせるような、著者独特の解釈が面白い。
    植物も動物も本当は何とも思っていないのかもしれない。少なくとも雑草は何とも思ってはいないだろう。普通なら興味を持つはずもない対象に、その意味をすくい取りこれだけのストーリー性を持った内容にまで広げる著者には、きっと雑草魂が乗り移っているに違いない。
    踏まれても抜かれても、状況に順応してより強くしたたかに生き残る雑草の生存戦略。この雑草魂。地方の中小零細企業であるさわや書店にも見習うべき点は多い。

  • no.411
    2020/8/15UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    幸福について ―人生論― ショーペンハウアー/新潮文庫

    あまりにも後ろ向きな幸福論のため、このような考え方は受け入れられないという人もいるだろう。著者もこれが全て正しいと思って書いている訳ではないような気がする。哲学者特有の小難しい言い回しなどもあるが、そんな些細なところは読み飛ばしていいと思う。ただし所々に、核心を突いているなあと感じる見解が込められている。幸福という、実体があいまいで雲を掴むような題材でも、徹底したリアリズムを追及している。
    現代はコミュニケーションツールの拡大によって、疲労や憎悪までをも拡大させてしまった。精神的なバランスを保つためにも、今こそもう一度読み継がれるべき名著だと思う。はっきり言って本書には相当の毒が含まれている。ただ、毒にも薬にもならないような希望を煽るだけの自己啓発本よりは、余程人生の真実が含まれているように感じる。

  • no.410
    2020/8/2UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    盆土産と十七の短篇 三浦哲郎/中公文庫

    無駄のない、すっきりとした文章。朴訥とした短い作品の中に、味わい深さだけを残す。主張やテーマなどを思わせる記述はほとんどないが、作中人物の佇まいだけでも、それを充分に伝え切っている。洗練された職人技の短篇集である。
    本書は中学校・高校の国語教科書に収録された作品を中心にまとめている。最初の「盆土産」はお父さんが盆土産にえびフライを買って帰って来る話だ。中学時代、この作品を題材に授業を受けたはずだが、先生がどのように教えたのかは申し訳ないけど全く覚えていない。ただ、この話自体は30年以上経った今でも鮮明に覚えている。理屈ではなく、これが作品の力なのだろう。

  • no.409
    2020/7/27UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    悪童日記 アゴタ・クリストフ/ハヤカワepi文庫

    この物語には注意が必要だ。普通に読めば、一切の感情を省いたような文章に、驚愕と嫌悪感を覚えてしまうかもしれない。しかし続編の「ふたりの証拠」を読むと大きく事情が変わってくる。そして三部作最後の「第三の嘘」でさらに印象が変わり完結する。後になってよく考えてみると「悪童日記」がより効いてくるのである。これは決して子供向けの物語ではない。
    映画で例えるならば、デイヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』のような、虚構と現実が入り交じる多重的で幻想的な物語に近い。ただしこの映画も普通に観た場合、初見ではかなりの混乱と恐ろしさだけを残してしまうかもしれない。
    デイヴィッド・リンチ監督はあるインタビューの中で、この映画の意味を問われた時にこんなコメントをしている。「そんなものは観た人が勝手に考えればいいし、それぞれが正解なんだ」と。名作は見方によっていろいろな解釈ができ、時を経ても決して色あせることがない。練り上げられた物語であることだけは間違いがなく、本書もそんな物語のひとつだろう。

  • no.408
    2020/7/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    アンガーマネジメント入門 安藤俊介/朝日文庫

    ほとんどの場合、外に出しても内に溜めても自分自身にとってはマイナス面しか生み出さない「怒り」。冷静さを失い、かかるストレスに対して結果が全く見合わない。それどころかさらに悪化させ、ますます自分が消耗してしまう。たまたまその怒りの原因がなくなったとしてもすぐにまた別の原因が発生し、終わる事はないのだろう。人間である以上決して怒りの感情が無くなることはない。
    本書はこんな環境の中にあっても、怒りに対して一歩でもプラスになるようなアプローチのしかたを紹介している。たとえどんなに怒りの原因を追究したとしても、それでは何の改善も生み出せない。まずは自分で変えられる事と変えられない事をはっきりと区別し、その上で自分ができる解決策にのみ焦点を当てる。やり方はいろいろと紹介されているが、たまにこういう本を読むだけでも気持ちが少し楽になる。
    怒りそれ自体は自分自身の問題だ。いつの日か自分自身の怒りを客観的に見て、あるいはもっと俯瞰して全体をメタ的に見た時に、その怒りのしょうもなさや栓の無さを笑い飛ばせるようになればOKなのだと思う。