さわや書店 おすすめ本

本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。

  • no.424
    2020/10/12UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    手塚治虫の山 手塚治虫/ヤマケイ文庫

    『火の鳥』のラストシーン。
    「文明をどんどん進歩させて、結局は自分で自分の首をしめてしまう。でも今度こそはと信じたい。今度の人類こそどこかでその間違いに気がついて、生命を正しく使ってくれるようになるだろう」と締めた。
    残念ながら現代でも、その間違った方向にどんどん進歩し続けている気がする。そもそも人間とはそういう意味で、ある種の愚かさを最初から組み込まれた生き物なのかもしれない。
    山をテーマにしたアンソロジーの本書は『火の鳥』に至る源流のようなものを感じさせる。超然とした自然に対する人間の愚かさや愛しさ。山や木や物さえも、人類と同等にひとつの命として捉えた時の自然観が人間の業を際立たせ、自然の厳しさと共に生命の尊厳を伝えている。
    日本のアニメ文化の奥深さ、その原点が著者なのだろう。

  • no.423
    2020/10/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子/河出文庫

    『南極料理人』『横道世之介』などの沖田修一監督で、11月6日より劇場公開される本書の映画が楽しみだ。
    人生は一度きりでやり直しがきかない。老いも別れも悲しみも、言葉では判ったような顔をしていても、実際の出来事による衝撃は全て誰もが初めての経験になる。タイトルの『おらおらでひとりいぐも』という言葉は、主人公が導き出すひとつの哲学というか悟りの境地に近い。喜びの中には深い悲しみが内包され、逆に深い悲しみの中にも喜びが内包されている。そのあたりの微妙な肌触りや気配のようなものを表現するのに、最もしっくりくるのが方言だったのだろう。
    本書に出てくる「食べらさるー」という方言も、なんとなく雰囲気は伝わっているだろうか。関係ないが「書かさる・書かさらない」という表現も単に「書ける・書けない」とは微妙にニュアンスが違う。岩手県周辺では方言と思っていない人も多いはずである。
    方言はさておき、年をとると独り言が多くなるのは、内なる何かと絶えず対峙し葛藤するものが増えるからかもしれない。それは見方によっては崇高な状態とも言える。

  • no.422
    2020/10/1UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    横道世之介 吉田修一/文春文庫

    大学入学後の、たった1年間だけを切り抜いた物語。そして所々に少しだけ挿入されるその後の人生が、チクリと胸に刺さる。
    自分とは全く関係ない物語のはずなのに、自分でも忘れている大切な何かを思い出させる。あの頃の事がなぜか次々と思い出され、なんだかとても切なく、いたたまれなくなる。懐かしくて切実。そんな小説だ。
    思い返してみると、若い時の中でその後を左右する重要な1年間というのは、確かにあるような気がする。ただし振り返ればというだけで、実際の当時はそんな事とは決して思ってはいない。それは本人も全く意識しないようなほんの些細な出来事だったりする。
    本書は当人も気づかない、なんてことのない、それでいて決定的な1年間その一瞬一瞬が見事に切り抜かれている。カッコいい事など何ひとつ起こらなくとも、紛れもない青春そのものが。
    本書原作の映画も傑作である。

  • no.421
    2020/9/28UP

    本店・佐藤おすすめ!

    ゾウとともだちになったきっちゃん 入江尚子・文 あべ弘士・絵/福音館書店

    ――名前を呼んで、気持ちを思いやると――
    主人公の女の子きっちゃんが、動物園のゾウと少しずつ心を通わせながら友だちになるお話。ゾウは、人が名前を呼び気持ちを思いやると、大切な仲間として覚えてくれることがあるそう。沢山の動物と暮らしてきた作家ならではの細やかな表現が、小さな胸に起こる感動を鮮やかに描きます。

  • no.420
    2020/9/28UP

    本店・大池おすすめ!

    盆土産と十七の短篇 三浦哲郎/中公文庫

    ――絶品の短編集――
    良い短編が読みたいと思った時、すぐ名前が出るのが三浦哲郎さん。亡くなって10年たちますが、今回の新刊は中学高校の教科書に収録された作品を中心に選び再編集したものです。特に、父親と母親の子供への愛情が伝わる「盆土産」「とんかつ」は泣けます。また「方言について」のエッセイは大笑いです。

  • no.419
    2020/9/28UP

    フェザン店・竹内おすすめ!

    お誕生会クロニクル 古内一絵/光文社

    ――「お誕生会」が引き起こす悲劇と感動――
    楽しいはずの「お誕生会」がいじめの引き金になるから「お誕生会」は禁止とした小学校。そこに連なる学校や会社やコロナ禍までのドロドロした様々な社会問題を詰め込んだ現代劇がリアルすぎて辛くなる。だが、最後にふとした救いが用意されてる連作短編集。気持ちが少し軽くなります。震災をからめた最後の2編に涙ぐみました。

  • no.418
    2020/9/28UP

    松園店・山崎おすすめ!

    なぜ僕らは働くのか 池上彰 監修/学研プラス

    ――先の見えない将来に悩む若者たちへ――
    不登校の中学生が転校をきっかけに様々な人との出会いや体験から今後への希望を見つけていく漫画を軸に、将来幸せに働くためやりたい事を見つけるコツやそのためのする勉強、一生のお金について、または挫折しそうな時にはなど、悩める小学高学年から中高校生に。

  • no.417
    2020/9/28UP

    外商部・栗澤おすすめ!

    沖晴くんの涙を殺して 額賀澪/双葉社

    ――ハンカチ必須の物語をぜひ。――
    主人公は先の震災で家族を失い、とある港町の高校に転校してきた少年。
    感情を失っていた彼が、余命いくばくもない女性と出会うことで何かが変わり始めますが…。
    人間らしく生きるとはどのようなことか。
    涙なくしては読めない感動小説が、ここに誕生しました。

  • no.416
    2020/9/19UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    読書について ショーペンハウアー/光文社古典新訳文庫

    読書の秋だが、まずは読書そのものの功罪を考えてみるのもいいかもしれない。本は量ではなく質だろうという事が、著者特有の辛辣さで表現されている。本書は徹頭徹尾「自分の頭で考えろ」というのがテーマだ。
    多読する人は次から次へと他人の考えや感情などが入ってくるので、気が付くと自分の実体験が少なく、何事にも評論家的な考え方しか出来なくなる。現代で言えばSNSなども全く同じような状況だろう。バーチャルで流行を追いかけているうちに、いつの間にか他人の考えや評価が自分自身の思考や価値基準になってしまう。
    本でも映画でもそうだが、読んだ時にはあまり意味がわからずに、でもどこか頭の中に残り考え続け、しばらく経ってからふとした瞬間にああそういう事かと腑に落ちる時がある。こういう時に読書が本当の意味で血となり肉となっているのだろう。
    それにしても、これだけ時代が変わり価値観や技術も変わっているというのに、その主張が全く古くならないというのもかなり凄い事だ。本でも音楽でも映画でも古典として残るものにはそれだけの大きな価値がある。良いものはいつの時代でも熟読、再読に十分値する。

  • no.415
    2020/9/14UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    王女マメーリア ロアルド・ダール/ハヤカワ・ミステリ文庫

    大人向けのショートミステリー。ちょっとしたブラックジョークのように軽く読めて面白く、また、深く読んでも唸らせるだけの奥行きがある。書かれていない部分の幅が読む人によってかなり違ってくるだろう。そのあたりも大人向けたるゆえんである。
    特にラストの表題作「王女マメーリア」は、非常に短い文章の中に絶妙な毒を含ませた見事な幕切れだ。