さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.5022022/4/22UP
本店・総務部Aおすすめ!
スタンド・バイ・ミー スティーヴン・キング/新潮文庫
公開当時、映画館で観た記憶がある。正直言ってあまりピンと来なかった。それはそうだろうと、今ならわかる。これは子供向けの物語ではない。大人が過去を振り返った時にだけ理解することができる光なのだ。絶対にあの夏は戻らないという、ちょっとしたセンチメンタリズムと共に。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』という長い映画がある。少年期、壮年期、老年期が交錯する物語の中で、ラストシーンには様々な解釈がある。個人的には、少年期は美化された過去の思い出、老年期は、こうあってほしいという美化された“未来の記憶”、その中間だけがリアルな現実だと思う。ラストの満面の笑みはそのことを示す表情だと思っている。
記憶は美化されたものであったとしても、それは間違いなく本人にとってかけがえのない宝物だ。これは感動する本や映画に出会った時も同じだろう。言葉にすればすぐに消えて無くなってしまいそうな、それでも残る確固たる想い。本書もそれを見事に表現している。 -
no.5012022/4/14UP
本店・総務部Aおすすめ!
教養としての茶道 竹田理絵/自由国民社
誰にでもわかる言葉で、簡潔に記載されている。どんなものでも本質はシンプルなものだと思うが、簡単だという意味ではない。茶道は日本の美術、文化、ビジネスに至るまで、そのエッセンスが凝縮された総合芸術だという事がわかる。「わび・さび」や「一期一会」、禅の精神や茶室における花の美などについて、なんとなく知っているようなことを明確な言葉で示している。
あらゆる無駄を削ぎ落としたような引き算の美学は、ものの本質的な意味を際立たせる洗練された美意識だ。日常生活ではなかなか触れる機会もない茶道だが、心のどこかにはその精神性だけでも置いておきたい。
一方で、普段はあまり気にも留めていないけれども、茶道的な美は探せば意外と至る所にあるのではないか。はっきりと言葉にできないだけで、感覚として頭ではみんな理解しているのだと思う。行動で示せるかどうかは別として。 -
no.5002022/4/11UP
本店・総務部Aおすすめ!
あるいは酒でいっぱいの海 筒井康隆/河出文庫
著者の初期短編集。ブラックユーモアの感覚が先日亡くなられた藤子不二雄A氏の「笑ゥせぇるすまん」に近い。あらゆる物語は、突き詰めればこのぐらいの短さでいいんじゃないか。本書の「怪段」は、ほぼ映画『シックス・センス』と言ってもいい。名作映画もエッセンスだけならほんの2~3ページで事足りる。
著者の短編集の中では「最後の喫煙者」もいいが、昨今では人に勧めるにはなかなかの勇気がいるブラックさだ。
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no.4992022/4/9UP
本店・総務部Aおすすめ!
時をかける少女 筒井康隆/角川文庫
これまで何度も映像化されているが、私のようなオッサン世代には原田知世なのである。これは絶対なのです。演技が上手いとか下手などという次元の話ではない。当時の原田知世にしかできない奇跡なのです。
さて、前置きはこのぐらいにして筒井康隆氏原作の本書は1965年、学研の「中学三年コース」から連載が開始され「高1コース」まで全7回で連載されていたそうな。著者のブラックな社会風刺短編集などを考えると、当時はかなり攻めた連載決定だったのではないかと推察する。今では発売していない連載の「学年誌」も懐かしいが、小説の文章自体がSFを扱いながらもどこか郷愁に似た懐かしさを感じさせる。痛烈なブラックユーモアを書く作家だからこそなのだろう、中高生向けに書かれた文章が別な角度から大人にも味わい深い。この短いストーリーが時を経る事でますます円熟した趣を醸し出す。古典の条件とは時間の経過に耐えうる普遍性があり、時代によって新たな価値が生まれることだとすれば、著者の作品とはそういうものなのだと思う。 -
no.4982022/3/29UP
本店・総務部Aおすすめ!
ベルリンは晴れているか 深緑野分/ちくま文庫
戦争はいずれにしても損失の方が大きい。自国に誇りを強く持つ人ほどその後の価値観や人生を大きく狂わされてしまう。日本も戦前から戦後の大人の変わり様は、子どもの目にはどのように映っただろうか。
ナチス・ドイツ敗戦直後のベルリンから本書の物語は始まる。この本編とは別に主人公の少女が生まれてから終戦までのストーリーを幕間として所々に挿入されている。ミステリーとしての解答はこの幕間の方にあるのだが、そんな事には関係なくそれぞれの話に引き込まれる。
戦争の被害は、外部から受けるものだけでなく、一般市民も含めた内部によっても引き起こされる。狂信的な集団であればあるほど、常に互いの疑心暗鬼は付きまとうのだろう。今のロシア・ウクライナでも表の戦争だけではなく、裏での特殊部隊やらスパイやらも暗躍しているのだと思う。そんな中で、子どもが大人を見る目の直感や善悪の感覚は、意外と一番正しいのかもしれない。「ベルリンは晴れているか」このタイトルがまた、いい。
最後にひとつ。先日観に行った『ベルファスト』。とてもいい映画だった。 -
no.4972022/3/21UP
本店・総務部Aおすすめ!
歴史問題の正解 有馬哲夫/新潮社
全然関係ないが、映画『セブン』にこんなセリフがある。
「本気で夫人に犯人を捕まえると言っただろ。私もそんな頃があった」
「犯人を捕まえなくて何をする?」
「捜査だ。証拠を集め現場の写真を撮り、事件の経過を調べ細かくメモを取る」
「それで?」
「すべてだ。それをきれいに書類にまとめて、万一の裁判のために備えておく」
「くだらんよ」
警察の捜査でもその仕事のほとんどは、事実を正確に記録しいつでも出せる状態に整理しておくところにある。まして国同士の歴史問題や戦争ともなれば、詳細な一次資料が国としての存在にも係わる最重要資料になるのだろう。
今のロシア・ウクライナの問題でも、感情的には見るに堪えないが、経済制裁の他に国際社会ができることは、経緯や事実関係を正確に記録し、各国の対応も含めすべてを保存しておく事しかないのだと思う。この地域で他国が下手に正義を振りかざして軍事介入したりすると、上記映画のブラッド・ピットではないが、暴力がさらなる暴力を呼び込み逆に利用され正当化されてしまう可能性すらある。ものの善悪や正義は諸刃の刃だ。
前回読んだ「アンナ・カレーニナ」はこんなエピグラフから始まる。
―復讐はわれにまかせよ、われは仇をかえさん―
これから後々の歴史が全ての答えを示すのだろう。
本書を読んでいてそんなことを思った。 -
no.4962022/3/17UP
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アンナ・カレーニナ レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ/新潮文庫
“幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである。”
いきなり考えさせられる一文から始まる本書は、人間の幸・不幸とは何か、哲学とは、宗教とは、社会とは何なのかを読者に深く問いかける、一生に一度は読むべき本のひとつだろう。上・中・下3冊のボリュームがあるため躊躇してしまうかもしれないが、決して難しい話ではないので、ふと思い出した時にでも軽く読み始めてほしい。基本的には二組の夫婦の物語である。それぞれの思考と結末を追ううちに鮮やかなコントラストが生まれ、答えは示されなくとも、対比の中から生きる意味を浮き立たせる。
午前十時の映画祭『ファーゴ』の解説で、町山智浩氏が本書との関連性を指摘していたので読んでみた。それにしても、ロシア…。こんなに素晴らしい文化・芸術方面もあるのに。 -
no.4952022/2/19UP
本店・総務部Aおすすめ!
スターメイカー オラフ・ステープルドン/ちくま文庫
よくわからない。
宇宙は謎だ。生命も謎そのものだ。
現代の世界はリアルタイムでつながり、情報はSNSで共有される。スーパーコンピューターやAIなど科学技術の進化は過去に比べ、今や夢の近未来にいるようなものだろう。それなのになぜ、人間にとって有益で便利なものが進化すればするほど、人間自身の醜悪さや愚かさが際立つ。「スターメイカー」=創造主(あるいは神)なるものが存在するならば、これらをどう見る。
全く関係ないが、「午前十時の映画祭」で『ファーゴ』を観る。人間の欲が雪だるま式に事態を悪化させていくストーリーのラスト、主人公マージのセリフ。「人生はもっと価値のあるものよ、こんないい日なのに」。
人間の価値とは結局のところ、どう回り道をしたとしても、目の前にある些細な、それでも確かな物事に集約される。
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no.4942022/2/3UP
本店・総務部Aおすすめ!
地上に星座をつくる 石川直樹/新潮社
エベレストなどを何度も登頂しているのに、なんの気負いも衒いもないナチュラリストらしい文章が気持ちいい。あくまでも旅人としての自然への接し方が、そのまま旅先での地元住民への接し方や写真、そしてこのエッセイの文章にも表れている。
ものの善悪などを断じず、世界各地のありのままの自然や人間と向き合い、感動を写真に収め、文章を綴る。このシンプルさの中に、主義主張や他のメッセージなどの入り込む余地はない。大自然への畏れを抱きながら、ただ、登り、撮り、書く。このあたりの感覚が非常にすっきりとしていて潔く、気持ちがいい。それにしても、ああ、旅に出たい。
作中には宮古市が、あとがきには盛岡市がちょっと出てくる。
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no.4932022/1/31UP
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平成のヒット曲 柴那典/新潮新書
最後のキスはタバコのFlavorがした
ニガくて切ない香り
“この「First love」の冒頭の2行が象徴するように、当時、宇多田の歌詞は「とても15歳が書いたとは思えない」と言われてきた。しかし、文学に居場所を見つけていたその来歴を考えると、改めてその作家性に納得がいく人は多いのではないだろうか。”(本書より)
trf、Mr.Children、安室奈美恵、サザンオールスターズ、DREAMS COME TRUE、レミオロメン、GReeeeN、いきものがかり、レディー・ガガ、米津玄師など、平成を彩ってきたミュージシャン達のヒット曲について、その時代背景とともに論じられている。
この中ではなんとなく、『1999(平成11)年の「First Love」宇多田ヒカル』の辺りが、音楽業界のみならず、あらゆる意味で時代の大きな転換点になっているように思う。ヒット曲で振り返る、平成とはどんな時代だったのか。それにしても、音楽はその時々に感じた空気、匂いまでをも鮮明に思い出させる。