さわや書店 おすすめ本
本当は、目的がなくても定期的に店内をぶらぶらし、
興味のある本もない本も均等に眺めながら歩く事を一番お勧めします。
お客様が本を通して、大切な一瞬に出会えますように。
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no.5082022/6/10UP
本店・総務部Aおすすめ!
旅をする木 星野道夫/文春文庫
環境保護、動物保護、温室効果ガス削減、クリーンエネルギー、SDGsなど、世界は過去にないほど環境問題に取り組んでいる。そのどれもが正しくて素晴らしい事には間違いないが、どこか空々しい感じがするのはなぜだろう。
この本は自然の営みや風景描写からダイレクトに著者の思いが伝わってくる。自然がどう在り、動物がどう生きているのか。生き物は必ず他の命を犠牲にして、それを自分の体内に取り入れることで生命を維持している。その事実を実感する事でしか本当の意味での自然への畏敬や、生かされているという意味を知ることはできないのかもしれない。
コロナ禍で何でも取り寄せる生活に慣れてしまうと、自然からの気づきはほぼゼロに等しい。しかも取り寄せるためにはそれだけのガソリンを使い、容器を使い、包装し、緩衝材を入れ、段ボールに入れて、誰かが個別に配送をする。とても効率的とは思えないし、プラスチックを含めたゴミも多く出ることだろう。その一方でSDGsを訴えたりもする。
そろそろ街中に出るのも観光地を巡る旅もいいだろう。そしてたまには人のいない場所で、泣けてくるような夕日が沈むのを眺めたり、おびただしい数の星空に、理解を超えた宇宙を感じたりするのもまた、自然から直接ものの在り様を教わるいい機会だ。 -
no.5072022/6/7UP
本店・総務部Aおすすめ!
気狂いピエロ ライオネル・ホワイト/新潮文庫
『レザボア・ドッグス』『パルプ・フィクション』『ヒート』『ファーゴ』『ノーカントリ―』『カリートの道』『レオン』…上手くいかないストーリーなのになぜか異常に味わい深い。そんな不思議な魅力溢れるクライムサスペンスの元祖が著者なのではないだろうか。
Obsession(妄執)が原題の本書。妻子ある冴えない中年男がちょっとしたことから犯罪に巻き込まれ、若い女との逃避行になる。深みにはまるほどに女の言う事を信じるほか道は無くなるが、本当は心のどこかでは真実に気づいていたのではないだろうか。「女を信じたい」という最後の「妄執」が、どんどん判断を狂わせてしまう。
著者原作の映画は、ゴダールの『気狂いピエロ』とキューブリックの『現金に体を張れ』が有名だ。どちらの監督も作品も非常に有名なのに、実はまだ観ていない。映画を観てから、最近本店に設置した「Excellent movies & Original books」のコーナーに入れようと思う。
本書の中で、映画『カサブランカ』の名曲「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」が出てくる。この映画も上手くいかないストーリーだが、それが異常にカッコいい。 -
no.5062022/6/4UP
本店・総務部Aおすすめ!
ロボット・イン・ザ・ガーデン デボラ・インストール/小学館文庫
今、劇団四季ミュージカル全国公演中の『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。そして今年8月公開、二宮和也主演の映画『TANG タング』の原作が本書だ。翻訳された本としてはほとんど違和感のない、非常に読みやすい本なので是非とも1冊、演劇や映画を観る記念としても持っておいて損はない。いつか気が向いた時に読み始めても必ず面白く、また読む年代によっても感想が変わり、時が経つほどにノスタルジーが際立つ。そういう本だと思う。
話は全く変わるが、映画『トップガン マーヴェリック』を観に行った。これは映画館で観るべき映画という事になるのだろう。まあ、どんな映画でも映画用に作られているものは基本的には映画館で観るべきなのだ。それは演劇でも美術でも音楽でも本でも同じ事が言える。とは言え便利な機器を全否定するつもりはない。その便利さは十分に理解しているし、享受してもいる。ただ、それらはあくまでも「サブ」であり、人間を補助するものだと思う。「サブ」を「メイン」にしてしまうのは、そこから抜け落ちるものが多すぎて、体験としてあまりにももったいない。そして、いい作品に対する対価は自己と制作者への投資だ。ポチっと安く入手すればするほど縮小する。 -
no.5052022/5/28UP
本店・総務部Aおすすめ!
そして、ぼくは旅に出た。
はじまりの森ノースウッズ 大竹英洋/文春文庫読みながら、ワンダーフォーゲル部時代のある夏の合宿を思い出した。北海道大雪山系。山の最深部に入ると出会う登山者も少なく、明らかに野生動物のテリトリーに場違いな人間がお邪魔をしているという感覚だった。姿は見えないもののなにか、こちら側がじっと観察されているような気配をひしひしと感じる。論理的にあるいはテクニカルな部分で正しければすべてが正しいと思うのは、人間の驕りだろう。北海道の山中で10日間ほど食料とテントを持って縦走した、遠い思い出。
本書は写真家を志した著者が大学卒業後、憧れの人物に会いに行った時の紀行文だ。どんなに技術的に向上し経験を積み上げたとしても、それを目指した時の瑞々しい第一歩には、思い出だけにとどまらず忘れてはならない大事なものが詰まっていると感じた。これはあらゆる仕事や生活の面にも同じことが言えると思う。いろいろな理論や技術が進化していく一方で、何がしたいのかという根本を見失うと、ただ翻弄されてしまう。道に迷ったら分かる地点まで戻る事が鉄則だ。答えは自分自身の中にしかない。そんな初心の大切さを思い出させてくれる本だった。 -
no.5042022/5/23UP
本店・総務部Aおすすめ!
ダロウェイ夫人 ヴァージニア・ウルフ/集英社文庫
『めぐりあう時間たち』という映画がある。ポケットに石を詰め、川で入水自殺した本書の著者ヴァージニア・ウルフを軸に、時代の異なる3人の女性の1日をそれぞれ、ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープが演じている。この3人を繋ぐモチーフとなるのが本書「ダロウェイ夫人」だ。この小説は訳者あとがきによると、もともと「時」と名づけられていたそうだ。映画の方も原題は『The Hours』となっていて、どちらも1日の物語ではあるものの意識は過去と現在を行き来し、今の状況とともに時間の経過を想わせる物語だ。たった1日、だがその人の全人生を象徴するような1日を深く表現し、すべてが凝縮された一瞬を描き切っている。
さわや書店本店では、傑作映画とその原作を集めたコーナーを設置した。本書は原作本というわけではないが、本の世界観と見事に一致した映画なのでこちらも入れてある。その他、何度観ても何度読んでも、より一層違った見方や新たな発見の際立つ名作ばかりを集めたので、ぜひ一度現物を手に取って確認してみてほしい。 -
no.5032022/5/14UP
本店・総務部Aおすすめ!
越境 コーマック・マッカーシー/ハヤカワepi文庫
著者の物語にはじめて触れたのはコーエン兄弟の映画『ノーカントリ―』だった。その年のアカデミー賞主要4部門を受賞し当時話題だったので映画館で観たのだが、強烈な印象を残しつつも何を言おうとしているのかが分からなかった。何だろうという思いはずっと心に燻り続けたままリドリー・スコット監督の『悪の法則』という映画を観る。これは著者が映画のために書き下ろした脚本でこれを観た時に、はっと気づく。その後、ピューリッツァー賞を受賞した『ザ・ロード』を読んで著者の一貫した文学性を確信する。次に『ブラッド・メリディアン』、そして全米批評家協会賞と全米図書賞を受賞した『すべての美しい馬』、『越境』『平原の町』と読み進めた。この三冊は「国境三部作」と呼ばれているが、単独で読んでも大きな問題はない。これらの本や映画の中でも最も著者の世界観が強く表れているのがこの、『越境』だと思う。
感情や思考の説明的な文章が一切なく、突然の結果が淡々と示されていく。哲学的な考え方が垣間見られるのは、メインのストーリーとは関係のない登場人物たちとの会話の中だけだ。これをどう解釈するかは完全にこちら側の思考になる。
個人的な解釈として最も単純化すれば、未来は誰にもわからず、過去は取り戻す事ができないという当たり前で厳粛な事実だ。唯一確かな事は、善人の上にも悪人の上にも太陽は昇り、全員に必ず死は訪れる。30年後であれ明日であれ。今この瞬間の行動について、その結果について、深く考えさせられる。但し極端にグロテスクな表現で示すので読む側にも相当なる覚悟が必要だ。
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no.5022022/4/22UP
本店・総務部Aおすすめ!
スタンド・バイ・ミー スティーヴン・キング/新潮文庫
公開当時、映画館で観た記憶がある。正直言ってあまりピンと来なかった。それはそうだろうと、今ならわかる。これは子供向けの物語ではない。大人が過去を振り返った時にだけ理解することができる光なのだ。絶対にあの夏は戻らないという、ちょっとしたセンチメンタリズムと共に。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』という長い映画がある。少年期、壮年期、老年期が交錯する物語の中で、ラストシーンには様々な解釈がある。個人的には、少年期は美化された過去の思い出、老年期は、こうあってほしいという美化された“未来の記憶”、その中間だけがリアルな現実だと思う。ラストの満面の笑みはそのことを示す表情だと思っている。
記憶は美化されたものであったとしても、それは間違いなく本人にとってかけがえのない宝物だ。これは感動する本や映画に出会った時も同じだろう。言葉にすればすぐに消えて無くなってしまいそうな、それでも残る確固たる想い。本書もそれを見事に表現している。 -
no.5012022/4/14UP
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教養としての茶道 竹田理絵/自由国民社
誰にでもわかる言葉で、簡潔に記載されている。どんなものでも本質はシンプルなものだと思うが、簡単だという意味ではない。茶道は日本の美術、文化、ビジネスに至るまで、そのエッセンスが凝縮された総合芸術だという事がわかる。「わび・さび」や「一期一会」、禅の精神や茶室における花の美などについて、なんとなく知っているようなことを明確な言葉で示している。
あらゆる無駄を削ぎ落としたような引き算の美学は、ものの本質的な意味を際立たせる洗練された美意識だ。日常生活ではなかなか触れる機会もない茶道だが、心のどこかにはその精神性だけでも置いておきたい。
一方で、普段はあまり気にも留めていないけれども、茶道的な美は探せば意外と至る所にあるのではないか。はっきりと言葉にできないだけで、感覚として頭ではみんな理解しているのだと思う。行動で示せるかどうかは別として。 -
no.5002022/4/11UP
本店・総務部Aおすすめ!
あるいは酒でいっぱいの海 筒井康隆/河出文庫
著者の初期短編集。ブラックユーモアの感覚が先日亡くなられた藤子不二雄A氏の「笑ゥせぇるすまん」に近い。あらゆる物語は、突き詰めればこのぐらいの短さでいいんじゃないか。本書の「怪段」は、ほぼ映画『シックス・センス』と言ってもいい。名作映画もエッセンスだけならほんの2~3ページで事足りる。
著者の短編集の中では「最後の喫煙者」もいいが、昨今では人に勧めるにはなかなかの勇気がいるブラックさだ。
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no.4992022/4/9UP
本店・総務部Aおすすめ!
時をかける少女 筒井康隆/角川文庫
これまで何度も映像化されているが、私のようなオッサン世代には原田知世なのである。これは絶対なのです。演技が上手いとか下手などという次元の話ではない。当時の原田知世にしかできない奇跡なのです。
さて、前置きはこのぐらいにして筒井康隆氏原作の本書は1965年、学研の「中学三年コース」から連載が開始され「高1コース」まで全7回で連載されていたそうな。著者のブラックな社会風刺短編集などを考えると、当時はかなり攻めた連載決定だったのではないかと推察する。今では発売していない連載の「学年誌」も懐かしいが、小説の文章自体がSFを扱いながらもどこか郷愁に似た懐かしさを感じさせる。痛烈なブラックユーモアを書く作家だからこそなのだろう、中高生向けに書かれた文章が別な角度から大人にも味わい深い。この短いストーリーが時を経る事でますます円熟した趣を醸し出す。古典の条件とは時間の経過に耐えうる普遍性があり、時代によって新たな価値が生まれることだとすれば、著者の作品とはそういうものなのだと思う。