さわや書店 おすすめ本

  • no.43
    2016/8/10UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    春にして君を離れ アガサ・クリスティー著 中村妙子訳/ハヤカワ文庫

    いやな話だ。誰一人悪人など出てこないだけにますますいやだ。ごく普通の善良な主婦が一人旅をして家に帰ってくる、ただそれだけの話である。道中にて、今までの人生を回想し、自己と向き合い自問自答を繰り返す。最初から最後までいやな不協和音がずっとベースに流れているかのように進み、そして物語は最後の一文で極まる。いやな話ではあるが、登場人物たちと自分は全然違うと誰が言い切れるのか。すべての登場人物において自分自身を投影することのできる部分があるからこそ、これほどいやで恐れるのだろうと思う。読後感は悪いが、しばらく茫然としてしまう程深く、長い余韻を残す。
    ちなみに著者原作「検察側の証人」の映画「情婦」も傑作だ。